12 / 15
12.
しおりを挟む
「二年間、あなたとはお母上の生活は順調だったようです。二人で穏やかに過ごしていたらしく、特に問題はなかったと聞いています」
「二年間……」
「やはり覚えていませんか?」
「はい……」
母と過ごした二年間、それを私はまったく覚えていない。
もちろん、その年齢での記憶は残っている方が珍しいはずだ。
それでも、覚えていたかったと思う。それはきっと、私の人生の中でも最も幸福だった時間だったはずだからだ。
「……ただ、突然アルファンド伯爵家の使者を名乗る人物が現れて、その生活は崩れ去ってしまったそうです」
「アルファンド伯爵家……」
「伯爵家は、あなたを保護するという名目で連れ去りました。そして、あなたのお母上を決して近寄らせなかった。それは恐らく、伯爵夫人の意思だったのでしょう」
「……そうだと思います」
浮気が発覚して、お父様は力を失ったと聞いている。
ということは、私を閉じ込めたのも母を伯爵家に近寄らせなかったのも、全てはお母様の指示ということになる。
恐らく、彼女は母を許せなかったのだろう。それはわかるし、ある程度仕方ないことであるとも思わなくはない。
だが、それでも私はお母様を許せないと思う。彼女は、私から全てを奪ったのだ。
「その後、あなたのお母上は苦しい生活を送ったそうです。せめて、あなたの近くにいたいとアルファンド伯爵家の領地で暮らそうとしても、伯爵家の影響力によって仕事が見つからず、遠く離れた地で暮らすことを余儀なくされたようです。ただ、彼女は頑張ることができなかったそうです。生きる希望を奪われていたからと、そう言っていました」
「生きる希望……」
私は、ゆっくりと涙を流していた。
母からの愛を理解して、その彼女と引き離されて、どうしてそんなことになってしまったのだろうか。
母がしたことは、お母様にとっては許せないことだったのかもしれない。しかし、私と母を引き離す権利が、どうしてお母様にあるというのだろうか。
「その話を聞いて、僕はここに来たのです。あなたを迎えに来たのです」
「私を迎えに……」
「あなたをこれ以上、ここに置いておきたくはありません。だから、あなたには僕の妻になってもらいたいのです。僕の隣で、新しい人生を歩んで欲しいのです」
「それは……」
ゼルーグ殿下の言葉は、素直に嬉しい。彼は私と母の境遇に同情して、助け出そうとしてくれているのだ。それが嬉しくない訳はない。
ただ、少しわからないことがあった。どうして彼は、私にここまでしてくれるのだろうか。
言ってしまえば、私達は他人である。ここまでして助ける理由なんてないはずだ。
その理由があるなら、是非とも聞いておきたかった。それを聞かなければ、私は彼の手を取ることができそうにないからだ。
「二年間……」
「やはり覚えていませんか?」
「はい……」
母と過ごした二年間、それを私はまったく覚えていない。
もちろん、その年齢での記憶は残っている方が珍しいはずだ。
それでも、覚えていたかったと思う。それはきっと、私の人生の中でも最も幸福だった時間だったはずだからだ。
「……ただ、突然アルファンド伯爵家の使者を名乗る人物が現れて、その生活は崩れ去ってしまったそうです」
「アルファンド伯爵家……」
「伯爵家は、あなたを保護するという名目で連れ去りました。そして、あなたのお母上を決して近寄らせなかった。それは恐らく、伯爵夫人の意思だったのでしょう」
「……そうだと思います」
浮気が発覚して、お父様は力を失ったと聞いている。
ということは、私を閉じ込めたのも母を伯爵家に近寄らせなかったのも、全てはお母様の指示ということになる。
恐らく、彼女は母を許せなかったのだろう。それはわかるし、ある程度仕方ないことであるとも思わなくはない。
だが、それでも私はお母様を許せないと思う。彼女は、私から全てを奪ったのだ。
「その後、あなたのお母上は苦しい生活を送ったそうです。せめて、あなたの近くにいたいとアルファンド伯爵家の領地で暮らそうとしても、伯爵家の影響力によって仕事が見つからず、遠く離れた地で暮らすことを余儀なくされたようです。ただ、彼女は頑張ることができなかったそうです。生きる希望を奪われていたからと、そう言っていました」
「生きる希望……」
私は、ゆっくりと涙を流していた。
母からの愛を理解して、その彼女と引き離されて、どうしてそんなことになってしまったのだろうか。
母がしたことは、お母様にとっては許せないことだったのかもしれない。しかし、私と母を引き離す権利が、どうしてお母様にあるというのだろうか。
「その話を聞いて、僕はここに来たのです。あなたを迎えに来たのです」
「私を迎えに……」
「あなたをこれ以上、ここに置いておきたくはありません。だから、あなたには僕の妻になってもらいたいのです。僕の隣で、新しい人生を歩んで欲しいのです」
「それは……」
ゼルーグ殿下の言葉は、素直に嬉しい。彼は私と母の境遇に同情して、助け出そうとしてくれているのだ。それが嬉しくない訳はない。
ただ、少しわからないことがあった。どうして彼は、私にここまでしてくれるのだろうか。
言ってしまえば、私達は他人である。ここまでして助ける理由なんてないはずだ。
その理由があるなら、是非とも聞いておきたかった。それを聞かなければ、私は彼の手を取ることができそうにないからだ。
11
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
冷酷な旦那様が記憶喪失になったら溺愛モードに入りましたが、愛される覚えはありません!
香月文香
恋愛
家族から虐げられていた男爵令嬢のリゼル・マギナは、ある事情によりグレン・コーネスト伯爵のもとへと嫁入りすることになる。
しかし初夜当日、グレンから『お前を愛することはない』と宣言され、リゼルは放置されることに。
愛はないものの穏やかに過ごしていたある日、グレンは事故によって記憶を失ってしまう。
すると冷たかったはずのグレンはリゼルを溺愛し始めて――!?
けれどもリゼルは知っている。自分が愛されるのは、ただ彼が記憶を失っているからだと。
記憶が戻れば、リゼルが愛されることなどないのだと。
(――それでも、私は)
これは、失われた記憶を取り戻すまでの物語。
婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました
有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。
魔力が弱い私には、価値がないという現実。
泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。
そこで目覚めた彼は、私を見て言った。
「やっと見つけた。私の番よ」
彼の前でだけ、私の魔力は輝く。
奪われた尊厳、歪められた運命。
すべてを取り戻した先にあるのは……
冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました
鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」
そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。
しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!?
だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。
「彼女を渡すつもりはない」
冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!?
毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし!
さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜――
リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される!
政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー!
「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」
婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。
石河 翠
恋愛
王都で商人をしているカルロの前に、自称天使の美少女が現れた。彼女はどうやら高位貴族のご令嬢らしいのだが、かたくなに家の名前を口に出そうとはしない。その上、勝手に居候生活を始めてしまった。
カルロとともに過ごすうちに、なぜ家出をしたのかを話し始める少女。なんと婚約者に「お前を愛することはない」と言われてしまい、悪役令嬢扱いされたあげく、婚約解消もできずに絶望したのだという。
諦めた様子の彼女に、なぜか腹が立つカルロ。彼は協力を申し出るが、カルロもまた王族から脅しを受けていて……。
実は一途で可愛らしいヒロインと、したたかに見えて結構お人好しなヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:3761606)をお借りしております。
こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/582918342)のヒーロー視点のお話です。
「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう
ムラサメ
恋愛
漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。
死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。
しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。
向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。
一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?
地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです
有賀冬馬
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」
そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。
社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。
そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。
過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。
そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。
「君が隣にいない宮廷は退屈だ」
これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる