22 / 31
21.おかしな様子
しおりを挟む
イルフェンお兄様は、再度婚約者のリフェルナ様に会いに行った。先日の悪印象を塗り替えるためである。
第一印象というものは、とても大切なものだ。そこで失敗してしまった以上、それを取り返すのはそれなりに難しいことだろう。
だが、お兄様は基本的には根気強い人だ。決して諦めることなく、リフェルナ様からの印象を覆すだろう。
「……」
「お兄様、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
そう思っていた私とウェリーナお姉様の前には、魂が抜けたようなお兄様がいる。
リフェルナ様の元から帰って次の日、成果を聞こうと呼び出したらこの様だ。
もしかしたら、聞く意味はないかもしれない。この反応は、どう見ても失敗だったという反応だろう。
「どうやら、手ひどくやられてしまったようですね……」
「ええ、そうみたいね……」
「む?」
しかし、私とお姉様の会話にお兄様は不思議そうな顔をしていた。
その反応は、少し意外である。てっきり、駄目だったのだと思っていが、そういう訳ではないのかもしれない。
「お兄様、もしかしてエルミナの言っているように悲惨な結果ではなかったのですか?」
「ああ、別にそういう訳ではないのだ」
「なら、どうしてそのような態度なのですか?」
「いや……いまいち釈然としていないというか、なんというか……」
どうやらお兄様は、失敗したという訳ではないようだ。
だが、それにしては歯切れが悪い。恐らく何かあったのだろう。
ただ、失敗ではない何かとはなんなのだろうか。あまり、予想ができない。
「何があったのですか?」
「先日の一件で、俺はリフェルナ嬢から悪印象をもたれていると思っていた。だが、実際の所そういう訳ではなかったようなのだ」
「え?」
お兄様の言葉に、私とお姉様は顔を見合わせた。
そもそもの前提が違っていた。それは、驚くべきことである。
「あんなことを言われたのに、悪印象ではなかったのですか?」
「お兄様の口振りからして、とても引いているような感じだったと思うのですが……」
「あの時の彼女は、確かに暗い顔をしていた。だが、それは違ったのだ。彼女は引いていた訳ではなく、羨ましがっていたそうなのだ」
「羨ましがっていた?」
お兄様の言っていることに、私は首を傾げた。
なんというか、状況がよくわからない。一体、どういうことなのだろうか。
「彼女は末っ子でね……兄や姉からかなり可愛がられていたようだ。それに幸せを感じつつも、ある思いを抱いていた。要するに、弟や妹が欲しかったということだ」
「なるほど、それで……」
「妹の話を楽しそうにするお兄様を羨ましがっていたと……」
リフェルナ様は、自分も妹が欲しいという思いを抱きながらお兄様の話を聞いていた。
その結果、絶妙な表情であんなことを言ってしまったということが、今回の件の真相であるらしい。
第一印象というものは、とても大切なものだ。そこで失敗してしまった以上、それを取り返すのはそれなりに難しいことだろう。
だが、お兄様は基本的には根気強い人だ。決して諦めることなく、リフェルナ様からの印象を覆すだろう。
「……」
「お兄様、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
そう思っていた私とウェリーナお姉様の前には、魂が抜けたようなお兄様がいる。
リフェルナ様の元から帰って次の日、成果を聞こうと呼び出したらこの様だ。
もしかしたら、聞く意味はないかもしれない。この反応は、どう見ても失敗だったという反応だろう。
「どうやら、手ひどくやられてしまったようですね……」
「ええ、そうみたいね……」
「む?」
しかし、私とお姉様の会話にお兄様は不思議そうな顔をしていた。
その反応は、少し意外である。てっきり、駄目だったのだと思っていが、そういう訳ではないのかもしれない。
「お兄様、もしかしてエルミナの言っているように悲惨な結果ではなかったのですか?」
「ああ、別にそういう訳ではないのだ」
「なら、どうしてそのような態度なのですか?」
「いや……いまいち釈然としていないというか、なんというか……」
どうやらお兄様は、失敗したという訳ではないようだ。
だが、それにしては歯切れが悪い。恐らく何かあったのだろう。
ただ、失敗ではない何かとはなんなのだろうか。あまり、予想ができない。
「何があったのですか?」
「先日の一件で、俺はリフェルナ嬢から悪印象をもたれていると思っていた。だが、実際の所そういう訳ではなかったようなのだ」
「え?」
お兄様の言葉に、私とお姉様は顔を見合わせた。
そもそもの前提が違っていた。それは、驚くべきことである。
「あんなことを言われたのに、悪印象ではなかったのですか?」
「お兄様の口振りからして、とても引いているような感じだったと思うのですが……」
「あの時の彼女は、確かに暗い顔をしていた。だが、それは違ったのだ。彼女は引いていた訳ではなく、羨ましがっていたそうなのだ」
「羨ましがっていた?」
お兄様の言っていることに、私は首を傾げた。
なんというか、状況がよくわからない。一体、どういうことなのだろうか。
「彼女は末っ子でね……兄や姉からかなり可愛がられていたようだ。それに幸せを感じつつも、ある思いを抱いていた。要するに、弟や妹が欲しかったということだ」
「なるほど、それで……」
「妹の話を楽しそうにするお兄様を羨ましがっていたと……」
リフェルナ様は、自分も妹が欲しいという思いを抱きながらお兄様の話を聞いていた。
その結果、絶妙な表情であんなことを言ってしまったということが、今回の件の真相であるらしい。
52
あなたにおすすめの小説
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」
この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。
けれど、今日も受け入れてもらえることはない。
私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。
本当なら私が幸せにしたかった。
けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。
既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。
アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。
その時のためにも、私と離縁する必要がある。
アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!
推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。
全4話+番外編が1話となっております。
※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる