商人として成功した私に、妹と元婚約者が資金難なので助けて欲しいと言ってきました。あなた達が私を公爵家から追放したのに、助ける訳ないでしょう?

木山楽斗

文字の大きさ
23 / 23

23(アルシーナ視点)

しおりを挟む
「実の所……ずっと疑問に思っていたことがあったの」
「疑問? 一体何を?」

 ロガルサ公爵家からの帰り道、私はクラールにそんな風に話を切り出した。

「私はどうして、あなたにこんなにも惹かれているんだろうって……」
「え?」
「好きな所は、いくらでも言えるのよ。真面目な所、優しい所、結構可愛げがある所、挙げればきりがないくらいに言えるの。でも、一体どうしてあなたと一生を歩んで行きたいと思ったのか、その答えが私にははっきりと出せていなかったの」
「なるほど……言われてみれば、それは難しいことなのかもしれないね」

 それは、私がずっと疑問に思ってきたことである。
 どうして、私はクラールと結婚したのか。その答えをはっきりと出すことが、私はまだできていなかったのだ。
 この人しかいないという気持ちに疑う部分はない。だが、そこに辿り着くまでの道筋が、何故か自分でもわからなかったのである。

「でも、今日その答えが見つかった気がするの」
「答えか……それは、私が聞いてもいいことなのかな?」
「聞いて欲しくなければ、こんなことは話さないと思うけど?」
「はは、それはその通りだね」

 今日の出来事、お母様に抱きしめられたことで、私はそれを理解した。やっと、答えが出たのだ。

「結局の所、私はあなたが手を差し伸べてくれたことが、どうしようもなく嬉しかったということだと思うの」
「手を差し伸べた……君を秘書として雇ったことを指しているのかな?」
「いえ、そういうことではないの……なんというか、私の心を受け止めてくれたというか……私の全てを受け入れて、助けようとしてくれた気持ちが、どうしようもなく嬉しかったのよ。他にも要因はあるけど、それが一番大きかったんじゃないかって、そう思うの」
「そうか……それなら私は、あの時最良の判断をしたということになるのかな?」
「そう思ってもらえているなら、嬉しい限りね」
「もちろん、そう思っているさ」

 クラールは、あの時、手を差し伸べて私の全てを抱きしめてくれた。
 きっと、私はそのことがとても嬉しかったのだ。生涯をともにしたいとそう思える程に。

「君の言葉を聞いたことで、私もわかったよ」
「え?」
「私がどうしてここまで君に惹かれているかということをさ」
「……聞いてもいいの?」
「聞いて欲しくなければ、こんなことは話さないと思うけど?」
「あっ……それも、そうよね」

 私の言葉を受けて、クラールも同じことに対する答えが出せたようだ。
 今まで、そんなことは考えていなかったという反応だったので、彼は随分早く答えに辿り着いたということになる。やはり、彼は賢い人間であるようだ。

「あの岬で最初に見た時、私は君があそこから飛び降りるんじゃないかとそう思っていた」
「ああ、そういえば、そうだったわね」
「勘違いだと思っていたけど……実は、そうではなかったんじゃないかと、今の私はそう思っているんだ」
「……どうしてそう思うの?」
「そろそろ付き合いも長いからね……」
「そう……そうよね」

 クラールの言葉に、私は呟くことしかできなかった。
 正直、私があの時どうしようとしていたのかは、私自身も完全に理解している訳ではない。
 だが、あの時一歩を踏み出す可能性があったかどうかと聞かれたら、それはそうだと答えるだろう。あの時の私は、全てをどうでもいいと思っていた。そうしていても、おかしくなかったはずである。

「どうして、こんなに傷ついているのだろう。初めは、それを疑問に思った。話を聞いて、私はとても苦しくなった。どうして、そんなにも優しい女性が、こんなにも苦しまなければならないのだろうと。そんな君を、私はどうしようもなく受け止めたくなったのだろうね」
「受け止めたくなった……?」
「そう……私は、君を守りたいと思った。君の繊細で温かい心に、私は惹かれたんじゃないかとそう思うよ」
「そうなのね……」

 私は、クラールの言葉に震えた。
 彼にそう思われていることが、とても嬉しかった。本当に、私はいい人と巡り会えたものである。

「これからも、どうかよろしくお願いします……クラール」
「ええ、もちろんです……アルシーナ」

 私は、アルシーナ。クラール・ウォングレイの妻である。
 これからも、それは変わらない。公爵家の権利を取り戻しても、他に何があっても、それだけは変わらないのだ。
しおりを挟む
感想 31

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(31件)

千夜歌
2021.10.14 千夜歌

連投申し訳ございません。

9P

アルシーナは少し口の端を歪めながらそう言ってきた

作者様はアルシーナの事が嫌いなのでしょうか?
口の端を歪めながら笑う=下衆な笑み
男性でも眉をしかめる行動を女性が恩を感じている相手にするとは思えません。
〔おずおずと〕とか〔遠慮がちに〕といった描写には程遠いように思われます。

2021.10.14 木山楽斗

ご指摘ありがとうございます。
修正させていただきます。

解除
千夜歌
2021.10.14 千夜歌

8P
優れている訳でもなければ貶める程でも~

貶めるのは…悪意が有りませんか?
窘める、諌める、咎めるなら分かりますが、貶めるのは少々見下し過ぎだと思います。

2021.10.14 木山楽斗

ご指摘ありがとうございます。
確かに、貶めるというのは、少しひどすぎたかもしれません。
修正させていただきます。

解除
ねこママ
2021.10.01 ねこママ

サブタイトルが無いので、各話の回想がどっちなのか分かり難かったです。
(2人共一人称が私だったので…)
彼女、とか、相手の名が出て初めて理解していました。
欲を言えば、実家が落ちて行く描写がもっと読みたかったです。

アルシーナ、幸せになって良かったですね^^v

2021.10.01 木山楽斗

感想ありがとうございます。
わかりにくかったなら、申し訳ありません。

解除

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

「証拠なら全て記録してあります」——記録魔法しか取り柄がないと捨てられた令嬢、婚約破棄の場で三年分の不正を読み上げる

歩人
ファンタジー
伯爵令嬢アネットの唯一の魔法は『記録《レコード》』——見たもの聞いたものを 一字一句記憶する地味な能力。婚約者の侯爵子息ヴィクトルは「戦えない魔法など 無価値だ」と婚約破棄を宣言する。だがアネットは微笑んだ。「承知いたしました。 では最後に一つだけ——」。彼女が読み上げ始めたのは、ヴィクトルが三年間で横領した 軍事費の明細。日付、金額、共犯者の名前、密会の会話。全て『記録』済み。 満座の貴族が凍りつく中、王宮監察官が静かに立ち上がった。 「……続けてください、アネット嬢」。 婚約破棄の舞台は、そのまま公開裁判になった。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

阿里
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

救国の代償で白髪になった聖女、一度のミスを理由に「無能の戦犯」として追放される ~隣国の覇王に拾われ、愛され、奇跡の力を見せつける~

スカッと文庫
ファンタジー
聖女アリシアは、百年に一度の大氾濫から国を守るため、禁忌の魔力全解放を行い、単身で数万の魔物を殲滅した。その代償として、彼女の美しい金髪は真っ白な「白雪色」に染まり、魔力は一時的に枯渇してしまう。 しかし、その功績はすべて現場にいなかった「偽聖女セシリア」に奪われ、アリシアは「結界を一部損壊させた戦犯」「魔力を失った役立たず」として、婚約者の王太子ギルバートから国外追放を言い渡される。 「失敗したゴミに、この国の空気は吸わせない」 泥の中に捨てられたアリシア。しかし、彼女を拾ったのは、敵対国として恐れられていた帝国の「武徳皇帝」ラグナールだった。彼はアリシアの白髪が「高純度の神聖魔力による変質」であることを瞬時に見抜き、彼女を帝国の宝として迎える。 数ヶ月後。アリシアが帝国の守護聖女として輝きを取り戻した頃、王国では「一度きりの奇跡」だったセシリアの魔力が尽き、本当の滅亡が始まっていた。 「今さら結界が解けたと泣きつかれても、もう私の魔力は一滴も残っていません」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。