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3.温かい歓迎に
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「遠路遥々、ご苦労だったな。さて、まずは自己紹介から始めるとしようか」
「あ、はい」
「俺の名は、ルバイト・アルバーン。このアルバーン侯爵家の現在の当主だ」
アリシアに対して、ルバイトはゆっくりと自己紹介をしてきた。
その口調からは、敵意は読み取れない。そう思ったアリシアは、少しため息をつく。
かつてランベルト侯爵家に連れて来られた時に、アリシアはひどい扱いを受けていた。
そもそも連れて行く時から乱暴だったが、ランベルト侯爵家はアリシアと母親のことを一つも歓迎していなかったのである。
二人は、乱雑な案内で別々の部屋に案内された。
アリシアは屋根裏の部屋、母親は物置へ。彼女達は、凡そ物のように乱雑に扱われていた。それと比べると、ルバイトの出迎えはとても穏やかであった。
「君は、アリシア・ランベルト侯爵令嬢で間違いないだろうか?」
「ええ、そうです。私がアリシアです……」
ルバイトの言葉に頷いたものの、アリシアには少し自信がなかった。
彼女は未だに、ランベルト侯爵家の一員であるという自覚がなかったのである。
確かに父親はランベルト侯爵なのかもしれないが、アリシアは凡そ侯爵家の令嬢としての扱いを受けていなかった。
そんな自分が、果たして侯爵令嬢といえるのか。アリシアの心には、そのような迷いがあったのだ。
そもそもの話、ルバイトは自分の事情をどこまで知っているのだろうか。
アリシアはそれを疑問に思った。婚約が決まってからも、彼女は結婚相手に対して情報をほとんど与えられていないのである。
「アリシア、と呼べばいいだろうか? 何か望みがあるのならば、それに合わせるが」
「いえ、アリシアとお呼びください。私は、ルバイト様でよろしいでしょうか?」
「別に呼び捨てでも構わないが、まあ好きに呼ぶといい」
アリシアにとって、貴族というのは未だに目上の存在でしかなかった。
故にルバイトの提案のように、呼び捨てにするなどということはできそうになかった。
もっとも、ルバイトも特に気にしている様子はない。
そのことに、アリシアは安心する。彼に対して、無礼ではないことが理解できたからだ。
「さて、このような所で話をするのも何だな。とりあえず、客室にでも案内しよう」
「あ、はい。ありがとうございます」
「それでは、俺について来てくれ」
ルバイトの言葉に従い、アリシアは彼の後ろをついて行く。
二人の眼前にあるのは、大きな屋敷である。その屋敷を見ながら、アリシアは少しだけ違和感を覚えていた。
アルバーン侯爵家の屋敷からは、人の気配というものが伝わってこないのだ。
外から見て感じたことなので、当然それはアリシアの気のせいかもしれない。
ただ、貴族の屋敷というものはそれなりの人々が働いている場所である。その気配というものは、多少なりとも感じられるはずだ。
そのように考えて、アリシアは少しだけ警戒をしていた。
もしかしたらこの屋敷にも何かがあるのかもしれない。アリシアはそんなことを思うのだった。
「あ、はい」
「俺の名は、ルバイト・アルバーン。このアルバーン侯爵家の現在の当主だ」
アリシアに対して、ルバイトはゆっくりと自己紹介をしてきた。
その口調からは、敵意は読み取れない。そう思ったアリシアは、少しため息をつく。
かつてランベルト侯爵家に連れて来られた時に、アリシアはひどい扱いを受けていた。
そもそも連れて行く時から乱暴だったが、ランベルト侯爵家はアリシアと母親のことを一つも歓迎していなかったのである。
二人は、乱雑な案内で別々の部屋に案内された。
アリシアは屋根裏の部屋、母親は物置へ。彼女達は、凡そ物のように乱雑に扱われていた。それと比べると、ルバイトの出迎えはとても穏やかであった。
「君は、アリシア・ランベルト侯爵令嬢で間違いないだろうか?」
「ええ、そうです。私がアリシアです……」
ルバイトの言葉に頷いたものの、アリシアには少し自信がなかった。
彼女は未だに、ランベルト侯爵家の一員であるという自覚がなかったのである。
確かに父親はランベルト侯爵なのかもしれないが、アリシアは凡そ侯爵家の令嬢としての扱いを受けていなかった。
そんな自分が、果たして侯爵令嬢といえるのか。アリシアの心には、そのような迷いがあったのだ。
そもそもの話、ルバイトは自分の事情をどこまで知っているのだろうか。
アリシアはそれを疑問に思った。婚約が決まってからも、彼女は結婚相手に対して情報をほとんど与えられていないのである。
「アリシア、と呼べばいいだろうか? 何か望みがあるのならば、それに合わせるが」
「いえ、アリシアとお呼びください。私は、ルバイト様でよろしいでしょうか?」
「別に呼び捨てでも構わないが、まあ好きに呼ぶといい」
アリシアにとって、貴族というのは未だに目上の存在でしかなかった。
故にルバイトの提案のように、呼び捨てにするなどということはできそうになかった。
もっとも、ルバイトも特に気にしている様子はない。
そのことに、アリシアは安心する。彼に対して、無礼ではないことが理解できたからだ。
「さて、このような所で話をするのも何だな。とりあえず、客室にでも案内しよう」
「あ、はい。ありがとうございます」
「それでは、俺について来てくれ」
ルバイトの言葉に従い、アリシアは彼の後ろをついて行く。
二人の眼前にあるのは、大きな屋敷である。その屋敷を見ながら、アリシアは少しだけ違和感を覚えていた。
アルバーン侯爵家の屋敷からは、人の気配というものが伝わってこないのだ。
外から見て感じたことなので、当然それはアリシアの気のせいかもしれない。
ただ、貴族の屋敷というものはそれなりの人々が働いている場所である。その気配というものは、多少なりとも感じられるはずだ。
そのように考えて、アリシアは少しだけ警戒をしていた。
もしかしたらこの屋敷にも何かがあるのかもしれない。アリシアはそんなことを思うのだった。
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