虐げられてきた妾の子は、生真面目な侯爵に溺愛されています。~嫁いだ先の訳あり侯爵は、実は王家の血を引いていました~

木山楽斗

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4.どう切り出すべきか

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 アリシアを客室まで案内したルバイトは、少しばかり困っていた。
 目の前にいるアリシアの様子が、明らかに変なのだ。

 彼女は、周囲を見渡しながらオドオドとしている。ルバイトの様子も伺っており、何か聞きたいことがあるといった感じだ。

 それにアリシアは、最初からどこか距離感があった。
 婚約者の家に来て、緊張しているだけではなく、彼女はルバイトのことをかなり警戒しているようなのだ。

 そんな彼女になんと声をかけるべきか、ルバイトは悩んでいた。
 彼も、アリシアの境遇を知らないという訳ではない。故にどう切り出すべきか、少々考えなければならないのである。

「……さて、俺に何か聞きたいことがあるだろうか?」
「聞きたいこと、ですか?」
「ああ、何か疑問を抱いているのではないかと思ったんだが、俺の勘違いだっただろうか?」
「それは……」

 悩んだ結果、とりあえずルバイトは彼女がきょろきょろとしている理由を、単刀直入に聞いてみることにした。
 するとアリシアは、面食らったような顔をしていた。彼女自身は、態度に現れていたということをわかっていなかったようだ。

「この屋敷はなんというか、人の気配がしないと思いまして……」
「ああ、そのことか……何も聞いていないのか?」
「あ、はい……」

 ルバイトの質問に、アリシアはぎこちなく頷いた。
 当然のことながら、婚約者の事情を聞かされていないというのは普通ではない。そのことに、ルバイトはアリシアの境遇を今一度思い出していた。

 妾の子というものが、どういった扱いを受けるのか、それをルバイトも知らない訳ではない。
 ただその前提を持ってしても、アリシアの扱われ方は常軌を逸しているように、ルバイトには思えた。

 アリシアの態度からも、それはわかる。
 彼女の怯えは、ランベルト侯爵家の人々が原因なのではないか。ルバイトの頭の中には、そのような考えが過っていた。

 それについてどこまで踏み込んでいいのか。ルバイトはそれを少し考えていた。
 しかし、彼はすぐに思考を切り替える。まずはアリシアに、自分の事情を伝えることを優先するべきだと考えたのだ。

「アルバーン侯爵家は、少々特別な事情を抱えている。そもそもの話ではあるが、俺のような若輩者が、どうして侯爵を襲名しているのか、君はわかるか?」
「すみません。貴族の世界には疎くて……」
「そうか。まあ、簡単に言ってしまえば、俺の父親が亡くなっているからだ。俺以外に、アルバーン侯爵家を背負える者がいない状況ということだな。ちなみに、母も亡くなっている。二人とも不慮の事故で同時に亡くなったのだ」
「それは……」

 ルバイトの言葉に対して、アリシアは目を丸めて固まっていた。
 身内が亡くなっているという事実は、当然ながらいきなり言われたら驚くものだ。

 ルバイトにとっても、両親の死は未だに噛み砕けているとは言い難い。
 ただ彼は、その悲しみをなるべく表に出さないように心がける。アリシアを悪戯に不安にすることは、避けたかったからだ。

「それに関しては、もう終わっていることだ。君が特に気にする必要はない……といっても、両親の後ろ盾がないというこの状況は、既に君にとっては迷惑かもしれないが」
「あ、いえ、私は大丈夫です……なんて、簡単に言ってはいけないのでしょうか?」
「それは君の心持ち次第としか言いようがないな」

 アリシアがひどく動揺しているように感じたルバイトは、彼女になるべくゆっくりと語りかけた。
 同時にルバイトは思っていた。今回の婚約が、思っていた以上に難しいものであるのだということを。
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