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 「お待たせしましたぁ」

 メニューを眺めながら他愛もない話をしていると、ヒールの音を響かせてユリアちゃんがエリの向かいの席に着いた。

 お店の入り口に対して背を向けて座っていたので、ユリアちゃんが来たのに気づかなかった。
 反対側の席に座っていたら、お店のお客さんがユリアちゃんをチラ見する姿を堪能できただろう。
 華やかで美しいユリアちゃんの登場で、店内がパッと明るくなったような気がした。

 今日のユリアちゃんはひざ丈の赤い花柄ワンピース姿。
 振り返ると背中が丸出しのセクシースタイルだ。

 背中の中程まで伸ばしたミルクティ色の髪はツヤツヤでゴージャスに巻かれている。
 完璧な美しさのヒールを履いた足も細く、スタイル抜群の美女だ。

 持っているバッグは白いエルメスのケリー、しかもクロコダイル。
 身に着けているアクセサリーも普通のサラリーマンが1年働いても買えないような大きなティアドロップにカットされたダイヤ。

 やはり美女が身に着けると迫力があり眼福だ。
 エリで美女を見慣れているはずの私も、思わず見とれてしまう。

 こうして露出度高めのゴージャス系美女と、2人と並ぶと授業参観帰りのお母さんにしか見えなくなってしまった地味な私という、妙な3人の会談が始まった。

 最初のうちはエリがユリアちゃん(今更だが、もちろん本名ではない)に仕事の改善提案や悩みはないかと聞いたりしていた。
 私は当初の予定通り聞き役に徹していた。

 ところが、なぜか話の雲行きが怪しくなり、ユリアちゃんはしきりに私の彼氏について話を振ってくるのだ。

 「千織さんの彼氏って、どんな人なんですか?」
 「いつから付き合ってるんですか?」
 「付き合うきっかけは?」

 このようなモテモテで恋愛偏差値の高い2人に対して、まったく面白くもない私の恋愛の話などしたくない。

 「どこにでもいそうな平凡な人です」
 「3か月前くらいからです」
 「マンションの前でナンパされたんです」

 私は話を広げない方向で、淡々と答えていた。

 「割と顔はいいよね」
 「生まれて初めて付き合ってくださいって言われて、浮かれて相手のこと全然知らないのにOKしたんだよね」
 「千織の家ってベイサイドの高層マンションの最上階なんだよ。しかも1人暮らし。おじいさんの持ち物だけど、結婚したら結婚祝いにもらえるんだよね」

 エリは、言わなくてもいい情報を付け加えて、話を広げようとしてくる。

 エリが私の受け答えを聞けば、私が話を広げたくない、さっさと別の話題に移りたいと思っていることくらい分かると思うのだが……。

 どうやらエリはこの話を続けようとしているらしい。
 
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