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第二章:僕たちの罪
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けれどその想いはある日突然、あっけなく
打ち砕かれてしまう。
夏休みに入る直前、ある街で殺人事件が起
きたのだ。
被害者は大学に勤務する男性で、歯学部の
准教授。大学からの帰宅途中、何者かに刃物
で首を刺され死亡した。殺害現場から犯人の
遺留品は発見されなかったが、逃走経路と思
われる路上から血痕が見つかり、それが近隣
に住む男性の靴底に付着していたとして、
当時単身赴任中だった武弘の父親、比賀尚之
が殺人の容疑で連行されてしまう。
もちろん、武弘の父親は犯行を否認。
一貫して無罪を主張したが、あろうことか
単身赴任先のアパートに所持していた日本刀
が銃砲等不法所持にあたるとして勾留期間中
に再逮捕されてしまった。さらに、犯行推定
時刻は一人で家にいたということでアリバイ
はなく、現場から立ち去る犯人を見たという
目撃証言から殺人罪で有罪が確定してしまう。
武弘は最後まで父の無実を信じたが、判決
が出た瞬間、殺人犯の息子となってしまった
彼の人生は一変した。
連日のように自宅にはマスコミが押し寄せ、
玄関先や郵便受けには、「お前が死ね」「出て
行け」などと書かれた紙や石が投げ込まれる。
そしてSNS上には武弘の名前や顔写真だ
けでなく学校名までもが暴かれ、目を覆いた
くなるような誹謗中傷が延々と書き込まれた。
それでも、武弘は学校を休まなかった。
しばらく自宅待機をして欲しいという担任
や教頭の申し出を断り、登校し続けたのだ。
「だってさ、オレが休んだら親父の罪を認
めることになるだろ?親父は絶対やってない。
いまもそう信じてるからさ。それにオレには
お前らがいる。だから一人じゃない、だろ?」
「当たり前だ、お前は一人じゃない」
「僕も、お父さんの無実を信じてるよ」
鼻の下を擦りながら強がって見せる武弘の
肩を間に挟み、僕たちは頷く。
けれど、世間の中傷に屈しない姿が同級生
の目には太々しく映ってしまったのだろう。
登校し続ける彼に対し、執拗ないじめが始
まった。靴や体操服はゴミ箱に捨てられ、机
や教科書は毎日のように落書きされる。鞄に
仕舞っておいた昼食のパンは、無残にも靴で
踏み潰された。
誰が犯人かはわからなかった。
誰もが犯人なのかも知れない。
そう思わなければならない状況がじりじり
と武弘を追い詰める。
「ふざけんな!やるなら堂々とやれよ!」
「そうだよ。こんなやり方、卑怯だろ!」
武弘を背に庇うマサと僕に、クラスメイト
が冷笑を向ける。『とべ』、『キリン』と呼ん
でいた友人たちはどこに消えてしまったのだ
ろう。殺人犯の息子を庇う不届き者として、
僕たちも悉くクラスから排除されていった。
打ち砕かれてしまう。
夏休みに入る直前、ある街で殺人事件が起
きたのだ。
被害者は大学に勤務する男性で、歯学部の
准教授。大学からの帰宅途中、何者かに刃物
で首を刺され死亡した。殺害現場から犯人の
遺留品は発見されなかったが、逃走経路と思
われる路上から血痕が見つかり、それが近隣
に住む男性の靴底に付着していたとして、
当時単身赴任中だった武弘の父親、比賀尚之
が殺人の容疑で連行されてしまう。
もちろん、武弘の父親は犯行を否認。
一貫して無罪を主張したが、あろうことか
単身赴任先のアパートに所持していた日本刀
が銃砲等不法所持にあたるとして勾留期間中
に再逮捕されてしまった。さらに、犯行推定
時刻は一人で家にいたということでアリバイ
はなく、現場から立ち去る犯人を見たという
目撃証言から殺人罪で有罪が確定してしまう。
武弘は最後まで父の無実を信じたが、判決
が出た瞬間、殺人犯の息子となってしまった
彼の人生は一変した。
連日のように自宅にはマスコミが押し寄せ、
玄関先や郵便受けには、「お前が死ね」「出て
行け」などと書かれた紙や石が投げ込まれる。
そしてSNS上には武弘の名前や顔写真だ
けでなく学校名までもが暴かれ、目を覆いた
くなるような誹謗中傷が延々と書き込まれた。
それでも、武弘は学校を休まなかった。
しばらく自宅待機をして欲しいという担任
や教頭の申し出を断り、登校し続けたのだ。
「だってさ、オレが休んだら親父の罪を認
めることになるだろ?親父は絶対やってない。
いまもそう信じてるからさ。それにオレには
お前らがいる。だから一人じゃない、だろ?」
「当たり前だ、お前は一人じゃない」
「僕も、お父さんの無実を信じてるよ」
鼻の下を擦りながら強がって見せる武弘の
肩を間に挟み、僕たちは頷く。
けれど、世間の中傷に屈しない姿が同級生
の目には太々しく映ってしまったのだろう。
登校し続ける彼に対し、執拗ないじめが始
まった。靴や体操服はゴミ箱に捨てられ、机
や教科書は毎日のように落書きされる。鞄に
仕舞っておいた昼食のパンは、無残にも靴で
踏み潰された。
誰が犯人かはわからなかった。
誰もが犯人なのかも知れない。
そう思わなければならない状況がじりじり
と武弘を追い詰める。
「ふざけんな!やるなら堂々とやれよ!」
「そうだよ。こんなやり方、卑怯だろ!」
武弘を背に庇うマサと僕に、クラスメイト
が冷笑を向ける。『とべ』、『キリン』と呼ん
でいた友人たちはどこに消えてしまったのだ
ろう。殺人犯の息子を庇う不届き者として、
僕たちも悉くクラスから排除されていった。
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