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第二章:僕たちの罪
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「……ありがとう。大丈夫そうだ」
静かに目を開けて、含羞む。
と、彼女は良かったと言ってさっと手を引
っ込めてしまった。去ってゆく体温を寂しい
と思う自分に戸惑いつつ、僕は慌てて手の平
で涙を拭う。冷静になって泣き顔を見られた
ことを思えば、急に頬が火照ってしまった。
「何だか、これじゃどっちが相談者かわか
らないな」
心の傷を語ることで彼女の気持ちが楽にな
ればと思ったのに、逆に僕の方が救われてし
まったようでどうにも情けない。情けなさに
頭を掻いて見せると、彼女は満足そうな顔で、
そんなこと、と首を振った。
その彼女に、ふと、ある疑問が湧いてくる。
あの日、彼女が『心のよりどころ』に参加
したのは、少なからず『救われたい』という
想いがあったからに違いないのだ。なのに、
日を置かずしてあんなことをしたのはなぜだ
ろうか?その疑問のままに顔を覗くと、彼女
は不思議そうに小首を傾げた。
「藤治さん。ずっと気になっていたんです
けど、もしかして何か辛いことがあったんで
すか?交流会に参加した時のあなたは、苦し
みを抱えてはいても絶望はしていなかったよ
うに思うんですが」
川に飛び込んだ理由を訊かれているのだと
察した途端、彼女は表情を曇らせる。
その反応にただならぬ気配を感じた僕は、
促すように「藤治さん」と彼女の名を呼んだ。
すると、細く息を吐きながら彼女が頷いて
くれる。僕は彼女の声に耳を欹てた。
「実は、手紙が届いたんです」
「手紙って、もしかして獄中結婚したとい
う奥さんからまた?」
「いえ、そうじゃなくて。何と言うか……
『兄』ではない『兄』から手紙が届いたんで
す。たった一文しか書かれていないものなん
ですけど、それを読んだら何だか生きている
のが辛くなってしまって、それで」
「えっ、待って。兄ではない兄から???
って、どういう???」
まるで、なぞなぞのような言葉に僕は訳が
わからず思いきり眉を寄せる。もしや揶揄っ
ているのだろうか?などと、つまらないこと
を考えてしまった僕に、それでも彼女は真顔
で頷いた。
そして鞄から何かを取り出し、僕に渡す。
渡されたそれを見やれば、何の変哲もない
真っ白な封筒がそこにある。開けていいか?
と視線だけで問うと、彼女は緊張した面持ち
でこくりと頷いた。
僕は、恐る恐る封筒から便箋を取り出す。
そこには、こんな一文が認められていた。
――犯罪には恐怖がつきまとう。それが刑罰
である。
まるで詩のような、格言のようなそれは、
便箋の真ん中に黒いペンで書かれている。何
の罪も心に抱えていない人が受け取ったなら
深い意味がないように感じる一文は、加害者
家族である彼女が受け取れば文字通り、言い
知れぬ恐怖がつきまとったに違いない。
静かに目を開けて、含羞む。
と、彼女は良かったと言ってさっと手を引
っ込めてしまった。去ってゆく体温を寂しい
と思う自分に戸惑いつつ、僕は慌てて手の平
で涙を拭う。冷静になって泣き顔を見られた
ことを思えば、急に頬が火照ってしまった。
「何だか、これじゃどっちが相談者かわか
らないな」
心の傷を語ることで彼女の気持ちが楽にな
ればと思ったのに、逆に僕の方が救われてし
まったようでどうにも情けない。情けなさに
頭を掻いて見せると、彼女は満足そうな顔で、
そんなこと、と首を振った。
その彼女に、ふと、ある疑問が湧いてくる。
あの日、彼女が『心のよりどころ』に参加
したのは、少なからず『救われたい』という
想いがあったからに違いないのだ。なのに、
日を置かずしてあんなことをしたのはなぜだ
ろうか?その疑問のままに顔を覗くと、彼女
は不思議そうに小首を傾げた。
「藤治さん。ずっと気になっていたんです
けど、もしかして何か辛いことがあったんで
すか?交流会に参加した時のあなたは、苦し
みを抱えてはいても絶望はしていなかったよ
うに思うんですが」
川に飛び込んだ理由を訊かれているのだと
察した途端、彼女は表情を曇らせる。
その反応にただならぬ気配を感じた僕は、
促すように「藤治さん」と彼女の名を呼んだ。
すると、細く息を吐きながら彼女が頷いて
くれる。僕は彼女の声に耳を欹てた。
「実は、手紙が届いたんです」
「手紙って、もしかして獄中結婚したとい
う奥さんからまた?」
「いえ、そうじゃなくて。何と言うか……
『兄』ではない『兄』から手紙が届いたんで
す。たった一文しか書かれていないものなん
ですけど、それを読んだら何だか生きている
のが辛くなってしまって、それで」
「えっ、待って。兄ではない兄から???
って、どういう???」
まるで、なぞなぞのような言葉に僕は訳が
わからず思いきり眉を寄せる。もしや揶揄っ
ているのだろうか?などと、つまらないこと
を考えてしまった僕に、それでも彼女は真顔
で頷いた。
そして鞄から何かを取り出し、僕に渡す。
渡されたそれを見やれば、何の変哲もない
真っ白な封筒がそこにある。開けていいか?
と視線だけで問うと、彼女は緊張した面持ち
でこくりと頷いた。
僕は、恐る恐る封筒から便箋を取り出す。
そこには、こんな一文が認められていた。
――犯罪には恐怖がつきまとう。それが刑罰
である。
まるで詩のような、格言のようなそれは、
便箋の真ん中に黒いペンで書かれている。何
の罪も心に抱えていない人が受け取ったなら
深い意味がないように感じる一文は、加害者
家族である彼女が受け取れば文字通り、言い
知れぬ恐怖がつきまとったに違いない。
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