罪の在り処

橘 弥久莉

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第三章:見えない送り主

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 「実は聞き込みが終わったらそのまま足を
伸ばしたい場所があるんです。だから帰りの
運転を克さんにお願いできればと」

 「足を伸ばすってお前、まさかオンナにで
も会いに行くのか?」

 ピッと小指を立て、克さんが片眉を上げる。
 俺はその冗談に時代のズレを痛いほど感じ
ながら、「違いますよ」と即答した。

 「友人のたっての頼みで、被害者遺族に話
を聞きに行きたいんです。まだ事件は何も起
きていませんが、何かが起こりそうな気配は
ある。だからその火種があるのか、ないのか
を確かめに」

 「友人ってのはあれだろ?SBナントカって
いう、加害者家族を支援してる団体の」

 途端に渋顔をしてみせた克さんに、黙って
頷く。すると彼は椅子の背もたれに体を預け、
盛大なため息を吐いた。

 「木林、お前のやりてぇことを邪魔する気
はさらさらないが、あまり加害者側に肩入れ
し過ぎるとオヤジ(署長)に睨まれるぞ?
ただでさえお前は出世街道から外れてるんだ。
出世できないキャリアが間引きに合うことを
わかってんなら、もっとうまく立ち回れや」

 諭すようにそう言ってくれる年嵩の同僚に、
俺は複雑な顔をして見せる。

 克さん自身も出世とはほど遠い刑事人生を
送っているのだが、彼の場合は自ら望んでそ
うしているのだ。

 昇進試験があるたびに、腹痛やら胃の痛み
を訴え病欠してしまう。

 現場主義を貫く彼らしい生き方だが、キャ
リア出身の俺がその生き方を真似ることは出
来ない。なぜならノンキャリと違い、育てる
のに費用がかかっているキャリアは、出世で
きないと三十後半で切られてしまうからだ。

 本来なら警視に昇進していてもおかしくな
い年齢の俺は、未だに所轄で刑事課長をして
いる。克さんの言う通り、警視から先は上か
らの評価で昇進することを考えると、悪目立
ちするのは得策ではなかった。

 俺は克さんの忠告を真摯に受け止めた上で、
信条を語った。

 「克さんの助言は骨身に染みてます。でも、
俺にとっては加害者家族も事件に巻き込まれ
た当事者なんです。日本では年に千二百件も
の殺人事件が起きてる。被害者と遺族だけで
なく彼らも犯罪に巻き込まれた当事者と思え
ば、その数は三倍にも四倍にも膨れ上がる。
だから、起きてしまった事件を一面的にしか
伝えない報道の影に苦しんでいる者がいるな
ら、俺は手を差し伸べるべきだと思ってます。
目の前に困っている人がいたら助ける。ただ
それだけのことが出来ないなら、俺は刑事の
職を追われても構わない」

 改めて口にした想いには、亡き親友に対す
る悔恨の念が込められていることを彼は知っ
ている。知っているからこそ、あえて俺の側
で目を光らせているのだろう。
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