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第三章:見えない送り主
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買い物帰りに郵便物を確認するのが日課な
のだ。だから、わたしはいつも通り、鈍色の
レトロなポストの蓋を開けた。
「!!?」
けれど開けた瞬間、わたしは違和感に顔を
強張らせてしまう。新聞とチラシが入ってい
ると思っていたそこに、半透明のビニール袋
に包まれた『黒い何か』が入っていたからだ。
「……えっ、なに?」
どくどくと鼓動が早なるのを感じながらも、
ゆっくりとビニール袋に手を伸ばす。
そして引きずり出すようにしてそれをポス
トから出したわたしは、中に入ってるものを
見て悲鳴を上げた。
「きゃあっ!!!」
恐ろしさのあまり、それを足元に落として
しまう。すると、ガサ、という音と共に中身
が飛び出した。カタカタと歯を鳴らしながら、
飛び出したものを覗く。
丸めるようにしてビニール袋に詰め込まれ
ていたそれは、むせるような臭いのする……
鴉の死骸だった。
「じゃあ、最後にこのポストを開けたのは、
昨日の午後五時ごろで間違いないですね?」
手帳を手にマサにそう訊かれた藤治さんが、
こくりと頷く。僕は蒼白な顔をしている彼女
の背をやさしく擦ると、眉間のシワを深めて
いるマサと視線を交わした。
『ポストに鴉の死骸が入っていた』
震える声で彼女からそう連絡があったのは、
相談者への家庭訪問を終え、事務所に戻って
すぐのことだった。僕はマサの留守電にその
旨を吹き込むと、すぐに事務所を飛び出した。
急くような思いで彼女の待つ古書店に駆け
付ければ、照明が落とされた店の奥に沈痛な
面持ちをした二人の姿が見える。息を切らし
ながら近づき、「鴉は?」と訊ねると、彼女
は血の気を失った顔で小さな段ボールを指差
したのだった。
僕の留守電を聞いたマサが生活安全課の人
を連れてやって来てくれたのはそれからまも
なくのことで、刃物で刺し殺されたらしい鴉
は、すでに安全課の人が回収してくれている。
僕は姿の見えない犯人から向けられる狂気
に苦悶の表情を浮かべる彼女を見やると、隣
に立つマサに声を潜めて言った。
「鴉をポストに入れた犯人は、手紙の送り
主と同一人物。そう考えて間違いないよな?」
ぱた、と手帳を閉じたマサに問うと、彼は
渋顔で、ふむ、と鼻を鳴らす。
「現段階ではそう考えるのが自然だろうな。
こうしたローテクな手口はストーカーが良く
使うものだが」
「ストーカーが?」
「ああ。アニマルアタックといって、嫌が
らせのために鳩や鴉の死骸を相手に送り付け
るんだ。賢い鴉を捕まえるのは大変だと思う
だろうが、特定の周波数に集まるという鴉の
習性を利用して手懐けておけば、それほど難
しくはない。無言電話に、アニマルアタック。
それだけならストーカーの線を疑うんだが」
そこで言葉を途切ったマサに僕は首を振る。
この一連の犯行が、歪んだ恋愛感情や被害
妄想を押し付けるストーカー行為と同じとは
思えなかった。
のだ。だから、わたしはいつも通り、鈍色の
レトロなポストの蓋を開けた。
「!!?」
けれど開けた瞬間、わたしは違和感に顔を
強張らせてしまう。新聞とチラシが入ってい
ると思っていたそこに、半透明のビニール袋
に包まれた『黒い何か』が入っていたからだ。
「……えっ、なに?」
どくどくと鼓動が早なるのを感じながらも、
ゆっくりとビニール袋に手を伸ばす。
そして引きずり出すようにしてそれをポス
トから出したわたしは、中に入ってるものを
見て悲鳴を上げた。
「きゃあっ!!!」
恐ろしさのあまり、それを足元に落として
しまう。すると、ガサ、という音と共に中身
が飛び出した。カタカタと歯を鳴らしながら、
飛び出したものを覗く。
丸めるようにしてビニール袋に詰め込まれ
ていたそれは、むせるような臭いのする……
鴉の死骸だった。
「じゃあ、最後にこのポストを開けたのは、
昨日の午後五時ごろで間違いないですね?」
手帳を手にマサにそう訊かれた藤治さんが、
こくりと頷く。僕は蒼白な顔をしている彼女
の背をやさしく擦ると、眉間のシワを深めて
いるマサと視線を交わした。
『ポストに鴉の死骸が入っていた』
震える声で彼女からそう連絡があったのは、
相談者への家庭訪問を終え、事務所に戻って
すぐのことだった。僕はマサの留守電にその
旨を吹き込むと、すぐに事務所を飛び出した。
急くような思いで彼女の待つ古書店に駆け
付ければ、照明が落とされた店の奥に沈痛な
面持ちをした二人の姿が見える。息を切らし
ながら近づき、「鴉は?」と訊ねると、彼女
は血の気を失った顔で小さな段ボールを指差
したのだった。
僕の留守電を聞いたマサが生活安全課の人
を連れてやって来てくれたのはそれからまも
なくのことで、刃物で刺し殺されたらしい鴉
は、すでに安全課の人が回収してくれている。
僕は姿の見えない犯人から向けられる狂気
に苦悶の表情を浮かべる彼女を見やると、隣
に立つマサに声を潜めて言った。
「鴉をポストに入れた犯人は、手紙の送り
主と同一人物。そう考えて間違いないよな?」
ぱた、と手帳を閉じたマサに問うと、彼は
渋顔で、ふむ、と鼻を鳴らす。
「現段階ではそう考えるのが自然だろうな。
こうしたローテクな手口はストーカーが良く
使うものだが」
「ストーカーが?」
「ああ。アニマルアタックといって、嫌が
らせのために鳩や鴉の死骸を相手に送り付け
るんだ。賢い鴉を捕まえるのは大変だと思う
だろうが、特定の周波数に集まるという鴉の
習性を利用して手懐けておけば、それほど難
しくはない。無言電話に、アニマルアタック。
それだけならストーカーの線を疑うんだが」
そこで言葉を途切ったマサに僕は首を振る。
この一連の犯行が、歪んだ恋愛感情や被害
妄想を押し付けるストーカー行為と同じとは
思えなかった。
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