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第三章:見えない送り主
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彼とあんなことになるとは、思ってもみな
かった。ただ会えるだけで良かったのに……
それだけで幸せだったはずなのに、お客さん
としてお店に来てくれると言ってくれたこと
が嬉し過ぎたのだ。
だからつい、はしゃいで彼を煽るようなこ
とを。緊張に体を硬くする彼の首筋を撫でた
自分を思い出し、思わず、ぎゅっと目を瞑る。
もし自分があんなことをしなければ二人の
関係は支援者と相談者のまま、いつかは途切
れていただろう。
それでは寂しいと、会えなくなったら寂し
いと、思うようになったのはどの時だったか。
目を閉じたまま記憶を辿れば、やはりあの
時だったと思い至る。
親友の死を悼み、自分を責めながら見せた
彼のやさしい涙。きっと、わたしの心に寄り
添うために自ら心の傷を晒してくれたのだと
思えば、堪らない心地だった。
彼はやさしい人なのだ。
とても、とても。
だから、あんな風に傷ついた手でわたしを
助けようとしてくれる。
「お礼だって言えば、重くないかな」
彼に答えを急がせるようなことは、したく
なかった。わたしが背負っているものを一緒
に背負って欲しいなんて、言えっこない。
「どうしよう」
ハンドクリームを手に、知らず独り言ちて
いた時だった。
「なに悩んでるの?」
突然、耳元で声がして、わたしは手で口を
覆った。
「びっくりした!」
真後ろにいたおばさんを振り返って言うと、
彼女は、ふふっ、と声を漏らす。そしてわた
しが手にしているものと違う商品を手に取る
と、にこやかに言った。
「佐奈ちゃんの手は若くてすべすべだから、
しっとりタイプより、さらっとタイプの方が
いいと思うけど」
そう言って、丸いケースに入ったハンドク
リームを渡してくれる。両手に商品を持たさ
れたわたしは、答えに窮してしまった。
「えっと、わたしのじゃなくて」
「じゃあ、みちくさ爺さんに?」
「そう、でもなくて、ええっと」
あ、そういうことにしておけば良かった!
と、気付いた時はもう遅かった。
説明に困り果てたわたしは首を捻りながら
商品を棚に戻すと、「また来ます」と言って
逃げるように店を出たのだった。
来た道を戻り始める。
ほんの少しの間悩んだだけだと思っていた
けど、商店街を歩く人影がさっきより少なく
なっている気がした。
わたしは店を出たままの足取りで、爺ちゃ
んの待つ古書店に向かう。そして細い十字路
の一角にある店に辿り着くと、自宅玄関の横
にあるポストの前に立った。
かった。ただ会えるだけで良かったのに……
それだけで幸せだったはずなのに、お客さん
としてお店に来てくれると言ってくれたこと
が嬉し過ぎたのだ。
だからつい、はしゃいで彼を煽るようなこ
とを。緊張に体を硬くする彼の首筋を撫でた
自分を思い出し、思わず、ぎゅっと目を瞑る。
もし自分があんなことをしなければ二人の
関係は支援者と相談者のまま、いつかは途切
れていただろう。
それでは寂しいと、会えなくなったら寂し
いと、思うようになったのはどの時だったか。
目を閉じたまま記憶を辿れば、やはりあの
時だったと思い至る。
親友の死を悼み、自分を責めながら見せた
彼のやさしい涙。きっと、わたしの心に寄り
添うために自ら心の傷を晒してくれたのだと
思えば、堪らない心地だった。
彼はやさしい人なのだ。
とても、とても。
だから、あんな風に傷ついた手でわたしを
助けようとしてくれる。
「お礼だって言えば、重くないかな」
彼に答えを急がせるようなことは、したく
なかった。わたしが背負っているものを一緒
に背負って欲しいなんて、言えっこない。
「どうしよう」
ハンドクリームを手に、知らず独り言ちて
いた時だった。
「なに悩んでるの?」
突然、耳元で声がして、わたしは手で口を
覆った。
「びっくりした!」
真後ろにいたおばさんを振り返って言うと、
彼女は、ふふっ、と声を漏らす。そしてわた
しが手にしているものと違う商品を手に取る
と、にこやかに言った。
「佐奈ちゃんの手は若くてすべすべだから、
しっとりタイプより、さらっとタイプの方が
いいと思うけど」
そう言って、丸いケースに入ったハンドク
リームを渡してくれる。両手に商品を持たさ
れたわたしは、答えに窮してしまった。
「えっと、わたしのじゃなくて」
「じゃあ、みちくさ爺さんに?」
「そう、でもなくて、ええっと」
あ、そういうことにしておけば良かった!
と、気付いた時はもう遅かった。
説明に困り果てたわたしは首を捻りながら
商品を棚に戻すと、「また来ます」と言って
逃げるように店を出たのだった。
来た道を戻り始める。
ほんの少しの間悩んだだけだと思っていた
けど、商店街を歩く人影がさっきより少なく
なっている気がした。
わたしは店を出たままの足取りで、爺ちゃ
んの待つ古書店に向かう。そして細い十字路
の一角にある店に辿り着くと、自宅玄関の横
にあるポストの前に立った。
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