罪の在り処

橘 弥久莉

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第三章:見えない送り主

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 ヒカリ爺さんの話を聞いて、思い出したよ
うにみちくさ爺さんが項垂れる。二人のやり
取りを聞いたマサは、ガシガシと頭を掻くと、
僕を向いた。

 「防犯カメラの落とし穴だな。カメラさえ
設置すれば迷惑行為や犯罪を防げると思って
いるだろうが、実際は取り付け角度が悪くて
死角が出来ていたり、プライバシーの侵害を
訴えられたりで役に立たないこともあるんだ。
肝心要のこの店のカメラがダミーとなると、
あとは搔き集めた防犯カメラから不審人物を
洗う作業になる。とにかく、いまここにある
古書店のカメラだけでも確認しよう。画質も
観てみたいしな」

 数多の事件を捜査しているマサにしてみれ
ば、この程度の躓きは些細なことなのだろう。

 僕たちは持ってきた記録装置をカウンター
のパソコンに繋げると、映し出された画像を
覗き込んだ。すると比較的鮮明な画像が時刻
と共に映り始める。僕とマサ、そして藤治さ
んの三人でそれを観ていると、まもなく彼女
が「あっ」と声を漏らした。

 「どうした?誰か怪しい人物でもいた?」

 彼女の反応に僕が問い掛けると、ふるふる
と首を振り、画面に映っている男性を指差す。

 「浅利さんが映ってるんです」

 「浅利さん?」

 僕と彼女のやり取りに、マサが手帳を取り
出した。

 「そう。『株式会社To meet』の浅利伴人あさりともひと
さん。この間、卜部さんが来た時にお店に
いた」

 「ああ、コンサルティング会社の」

 僕は頷きながら画面を覗く。
 あの日、ちらっ、と言葉を交わしただけだ
が、見覚えのある顔が向かいの金物屋の前で
ヒカリ爺さんと談笑している。

 マサはその画像をじっと見つめると、手帳
にメモを取り始めた。

 「日時は今日の十四時二十三分。この画像
を見る限り、手には何も持っていないな」

 そう言うと、マサは後ろを振り返り遠巻き
に画像を見ていたヒカリ爺さんを手招きした。

 「この方をよく御存じですか?古書店に出
入りしている人物だそうですが」

 「ああ、浅利さんね。この人のことならよ
く知ってますよ。みちくさに来たついでに、
プリンタのインクやら電池やら、細々とした
ものを買ってってくれるんですわ。人が良い
からか、年寄りの長話も嫌な顔一つせず付き
合ってくれてね。佐奈ちゃんの相手にいいん
じゃないかって、家内とも話してるくらいで」

 最後のひと言に藤治さんはこれ以上ないほ
ど目を見開く。そしてパタパタと顔の前で手
を振りながら、ヒカリ爺さんに言った。

 「浅利さんはいい人で尊敬もしているけど、
全然そんなんじゃないの。仕事上のお付き合
いだけよ」

 慌てた様子で否定する彼女に、ヒカリ爺さ
んは、髭をくるくると指先に巻き付けながら
首を傾げる。

 「そうかい?お似合いだと思ったんだがね。
みちくさ爺さんも、そろそろ婿が欲しいとか
言っとるし、のぉ?」

 ヒカリ爺さんが顔を窺うように覗くので、
みちくさ爺さんも白い顎髭を弄りながら頷く。
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