罪の在り処

橘 弥久莉

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第五章:罪の在り処

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 「しかし、なぜ彼がこんなことを。うちに
何の恨みがあるというんだ?」

 その言葉に僕は表情を険しくする。

 なぜ浅利伴人が盗聴器を仕掛け、ありもし
ないイベントを偽ったのか?おそらく彼女が
加害者家族であることを知っての所業だろう。

 だとすれば、彼女が忽然と姿を消したこと
も彼が関わっているに違いない。

 僕はそこで、はっ、と顔を上げる。
 そして、みちくさ爺さんに言った。

 「すみません、ちょっとヒカリお爺さんの
ところに行って来ます!」

 言い終わるか、終わらないかのうちに僕は
身を翻す。その背中にお爺さんの「ワシも」
という声が聞こえた気がしたが、僕はひとり
で店を飛び出していった。




 真夜中のうちに上信越道を走り長野ICで
降りると、フロントガラスに映る空は曙色に
染まっていた。俺は県警に着き駐車場に車を
止めると、目覚ましがてらブラック珈琲を喉
に流し込んだ。睡眠不足の影響か世界が赤く
見えるような気がして目頭を押さえる。途中
のICで仮眠を取ろうかとも思ったが、早く
知りたいと思う気持ちが先に立ってしまった。

 車を降りると、まだ窓口業務も始まってい
ない閑散とした警察署内を進んでゆく。そし
て、地下にある山岳安全対策課の窓口に座る
男性に声を掛け、警察手帳を見せた。

 「おはようございます。目黒北警察、刑事
課の木林です。朝早くから申し訳ないが県内
で発生した山岳遭難事故の捜索記録を見せて
もらいたい」

 欠伸をかみ殺していた男性職員は、はっ、
と背筋を伸ばし頷く。

 「お疲れさまです。山岳遭難事故捜索報告
書の閲覧ですね。調べたいのはいつ頃の遭難
事故でしょうか?」

 制服を着た職員が立ち上がる。
 俺はパソコンに向かおうとする男性の背中
に「七年前です」と答えた。すると、男性は
くるりと振り返る。そして肩を竦めた。

 「七年前の報告書はまだデーターで保管し
ていないんです。申し訳ありませんが、資料
室にファイルしてあるものを探すことになり
ますが、それで構いませんか?」

 「構いません。資料室はどこですか?」

 「はっ、ご案内します」

 いそいそと窓口から出てくると男性職員は
俺を先導し始める。蛍光灯の灯りだけが照ら
す通路を一番端まで進んでゆき、第三資料室
と記されている部屋の前で立ち止まった。

 「こちらです」

 ポケットからじゃらじゃらと鍵を取り出し、
ドアを開けてくれる。中に入り男性がパチリ
と部屋の灯りをつけた瞬間、俺は顔を顰めた。

 「もしかして、これぜんぶ報告書ですか?」

 ずらりと並ぶ鈍色のパイプ棚に、ぎっしり
詰め込まれた段ボールを見やる。部屋の奥に
は備品らしき物も収納されているが、天井ま
で段ボールが積み上げられたパイプ棚は優に
十列ほどあった。
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