罪の在り処

橘 弥久莉

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第五章:罪の在り処

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 「はっ、過去五十年分の捜索報告書、並び
に遺留品をこちらに保管しています。手前が
新しい報告書になりますので……七年前です
とこの辺りでしょうか?」

 言いながら段ボールに蛍光灯の灯りが遮ら
れたやや薄暗い部屋を進んでゆく。そして首
を伸ばしつつ、ここかな?と棚の間に男性が
入ろうとしたその時、彼の懐で携帯が鳴った。

 「ああっ、ちょっと外してもいいですか?」

 液晶画面に映る着信外面を見た瞬間、彼は
そう言って肩を竦める。そろそろ業務開始前
の朝礼が始まるころだろう。俺は快く頷いた。

 「あとは自分で探すので大丈夫です。業務
に戻ってください」

 「すみません、じゃあ何かわからないこと
があったら声を掛けてください」

 ぺこりと頭を下げると、男性は携帯を手に
部屋を出てゆく。俺は、ここかな?と言いな
がら男性が入って行こうとした棚の間に体を
滑り込ませると、各月ごとに保管されている
らしい段ボールを見上げた。ざっと段ボール
に貼られている白いラベルを見ると、ある程
度、年代ごとに纏めて置かれていることがわ
かる。俺は懐から手帳を取り出すと、メモし
ておいた遭難事故発生日時を確認した。

 「二〇一×年一月二十三日か。この辺りは
二〇一×年だから、もっと奥かな」

 ラベルに記された日時を頼りに、該当する
段ボールを探してゆく。けれど、年代ごとに
纏められてはいても事故発生月はバラバラに
保管されており、なかなか見つからなかった。

 「どこなんだ、いったい!一月がないぞ!」

 すぐに見つかるかと思いきや、月ごとにラ
ンダムに並ぶ段ボールに俺は苛立ちを覚える。

 男性がこの辺りだと言った列には見つから
ず、その次の棚を上から下まで確認し、それ
でもないので俺は疲れにゴリゴリと首を鳴ら
しながら元の棚に戻った。


――その時だった。


 急に辺りがひやりとした気がして、俺は肩
を震わせる。震わせた瞬間、頭に響くような
声が聞こえ、思わず息を呑んだ。

 『……キリン』

 聞こえるはずのないその声に、鳥肌が立つ。


――まさか、そんな。


 だが、あいつの声を俺が聞き違えるはずが
ない。そう思って声がした方を向くと、薄暗
い棚の向こうに在りし日の武弘が立っていた。

 「……武弘。本当に、お前なのか?」

 もしかして、夢でも見ているのだろうか?
 信じられない思いで俺は寝不足の目を擦る。
 けれど、何度目を擦っても武弘の姿が消え
ることはなかった。十年前、目の前で死んだ
はずの親友がそこにいた。

 『キリン』

 「武弘!」

 今度こそはっきり声が聞こえ、俺は武弘に
近づこうとする。恐怖心はなかった。たとえ
幽霊だとしても、あいつが俺の前にいる。俺
に、会いに来てくれている。そう思えば胸は
言いようのない感動に溢れ、目頭が熱かった。

 が、なぜか俺の足は床に張り付いたように
動かない。気付けば、体全体が金縛りにあっ
たかのように固まっていた。
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