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第五章:罪の在り処
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「大丈夫、電話は切れたけど彼女の居所は
わかりました。H糀谷の廃工場ならここから
タクシーでそんなにかからない。僕も行って
くるので、お爺さんは店で待っててください」
「いやっ、ワシも一緒に!」
杖にしがみつきながら歩き出したお爺さん
を僕は止める。そして椅子に座らせると顔を
覗き込んだ。
「お爺さんは待っててください。佐奈さん
は必ず僕が連れて戻りますから」
「だが、佐奈を連れ去った犯人は恨みから
何をするかわからん。君だって危険なんじゃ」
そう言って真っ白な眉を寄せるお爺さんに、
肩を竦めて見せた。
「確かに、僕は無力な一市民かも知れない。
でも、何があっても彼女を守ると約束したん
です。大丈夫、警察は逮捕状を取ってすぐに
現場に向かってくれる。きっと僕が着くころ
には、警察も現場に到着するはずです」
笑みを向け、肩を叩くとお爺さんはしぶし
ぶ頷いた。その顔に僕はくるりと踵を返すと、
ひとり足早に店を出た。
商店街の脇道を抜け、大通りへと向かう。
向かいながら僕は浅利伴人、いや、当麻卓
のことを考えていた。
盗聴で早川永輝の仮釈放を知った当麻卓は、
きっと彼を誘き出すためにあの手紙を送り付
けたのだろう。そして、これはあくまで僕の
推測だが、当麻卓は母親の様子を窺うため、
時折り地元を訪れていたのだ。
あの手紙はその時に自宅近くのポストから
投函された。投函された瞬間から運命の歯車
が動き始めた。
――犯罪には恐怖がつきまとう。それが刑罰
である。
その言葉に彼が込めた、本当の意味を悟る。
「……犯罪には『復讐』という恐怖がつき
まとう。それが刑罰である」
復讐だ。
彼の目的は、復讐。
自分の死を偽装し、別人となってまで彼が
成し遂げようとしていること。
妹を殺された苦しみと、悲しみと、憎しみ。
それがいま、刃となりあの兄妹に向けられ
ている。
「……無事でいてくれ、佐奈」
好きだと告げた瞬間、幸せに涙を滲ませた
彼女を思い浮かべると、僕はタクシーを停め、
H糀谷にあるという廃工場へ向かった。
◇◇◇
「降りろ」
都内の廃工場らしき敷地に車を止め、彼が
助手席のドアを開ける。その手には切先の鋭
い折り畳み式の包丁が握られていて、わたし
は大人しく彼に従った。車を降りると背中に
刃物を突き付けられ、人気のない建物の中に
入ってゆく。天井の高い廃工場には、築年の
埃が積もったボール盤やフライス盤が鎮座し、
黄色いヘルメットや泥にまみれたお茶のペッ
トボトルが転がっていて、目の前に広がる
ディストピア的な光景にわたしは唾を呑んだ。
わかりました。H糀谷の廃工場ならここから
タクシーでそんなにかからない。僕も行って
くるので、お爺さんは店で待っててください」
「いやっ、ワシも一緒に!」
杖にしがみつきながら歩き出したお爺さん
を僕は止める。そして椅子に座らせると顔を
覗き込んだ。
「お爺さんは待っててください。佐奈さん
は必ず僕が連れて戻りますから」
「だが、佐奈を連れ去った犯人は恨みから
何をするかわからん。君だって危険なんじゃ」
そう言って真っ白な眉を寄せるお爺さんに、
肩を竦めて見せた。
「確かに、僕は無力な一市民かも知れない。
でも、何があっても彼女を守ると約束したん
です。大丈夫、警察は逮捕状を取ってすぐに
現場に向かってくれる。きっと僕が着くころ
には、警察も現場に到着するはずです」
笑みを向け、肩を叩くとお爺さんはしぶし
ぶ頷いた。その顔に僕はくるりと踵を返すと、
ひとり足早に店を出た。
商店街の脇道を抜け、大通りへと向かう。
向かいながら僕は浅利伴人、いや、当麻卓
のことを考えていた。
盗聴で早川永輝の仮釈放を知った当麻卓は、
きっと彼を誘き出すためにあの手紙を送り付
けたのだろう。そして、これはあくまで僕の
推測だが、当麻卓は母親の様子を窺うため、
時折り地元を訪れていたのだ。
あの手紙はその時に自宅近くのポストから
投函された。投函された瞬間から運命の歯車
が動き始めた。
――犯罪には恐怖がつきまとう。それが刑罰
である。
その言葉に彼が込めた、本当の意味を悟る。
「……犯罪には『復讐』という恐怖がつき
まとう。それが刑罰である」
復讐だ。
彼の目的は、復讐。
自分の死を偽装し、別人となってまで彼が
成し遂げようとしていること。
妹を殺された苦しみと、悲しみと、憎しみ。
それがいま、刃となりあの兄妹に向けられ
ている。
「……無事でいてくれ、佐奈」
好きだと告げた瞬間、幸せに涙を滲ませた
彼女を思い浮かべると、僕はタクシーを停め、
H糀谷にあるという廃工場へ向かった。
◇◇◇
「降りろ」
都内の廃工場らしき敷地に車を止め、彼が
助手席のドアを開ける。その手には切先の鋭
い折り畳み式の包丁が握られていて、わたし
は大人しく彼に従った。車を降りると背中に
刃物を突き付けられ、人気のない建物の中に
入ってゆく。天井の高い廃工場には、築年の
埃が積もったボール盤やフライス盤が鎮座し、
黄色いヘルメットや泥にまみれたお茶のペッ
トボトルが転がっていて、目の前に広がる
ディストピア的な光景にわたしは唾を呑んだ。
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