罪の在り処

橘 弥久莉

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第五章:罪の在り処

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 再び閉じたドアウィンドウに、わたしは口
を引き結ぶ。ハッタリを噛ました心臓は早鐘
を打っていたが、どうやら彼を欺くことが出
来たようだ。けれど、胸の内ポケットにある
財布用携帯は充電がほとんどない。このまま
気付かれなかったとしても、いつまで充電が
持つかわからない。

 イベント会場から遠ざかってゆく車の窓か
ら、流れる景色を見やる。古民家へ足を運ん
だ彼は、きっと呆然とすることだろう。人っ
子一人いないその場所に立ち尽くし、わたし
に電話を掛けるに違いない。そして繋がらな
い電話にわたしを探し始める。

 けれど、わたしは再び生きて彼に会うこと
が出来るのだろうか?

 もしも命を落としたら、彼はどれほど傷つ
くのだろう。わたしを守れなかったと、自分
を責めるのだろう。

 「……卜部さん」

 唇だけで彼の名を呼ぶ。

 あの夜の幸せが、彼の温もりが幻のように
甦って、わたしは苦しくなる胸にそっと手を
あてた。



◇◇◇



 携帯会社に情報の開示を求めるため、マサ
が電話を切ってから一時間が過ぎた。

 カウンターの椅子に座り、ガックリと肩を
落としているお爺さんの背中を擦っていた僕
は、再び着信を告げた携帯にびくりと肩を震
わせた。

 「もしもしっ!」

 緊張に携帯を握り締め、耳を押し当てる。
 すると、『待たせたな』とマサの力強い声
が飛び込んで来た。

 『彼女の居所が掴めた。一台は国道の中央
分離帯付近から破損した状態で××かったが、
もう一台の電波を追跡することが出来たんだ。
場所は大田区内の廃工場だ。住所はH糀谷
三丁目。××で電波を発したまま止まってる』

 「……廃工場。良かった、財布用の携帯が
生きてたのか!」

 僕は思わずガッツポーズをしてしまう。
 奇跡的に彼女の居所を掴めたことに束の間、
歓喜した。が、すぐに僕は現実に引き戻され
る。まだ居所が掴めただけで彼女の安否まで
はわからないのだ。早く、助けに行かないと。

 焦燥感に駆られ店の入り口に目を向けた僕
に、マサが続ける。

 『これから逮捕状を取って××現場に向か
う。悪いが、そっちには別の捜査員を×××
××せるから、そこで××てろ。危険だから
×××××くなっ……プッ』

 「もしもし、もしもしっ?」

 マサの声が途切れ途切れに聴こえたかと思
うと、そこで通話が切れてしまう。首を傾げ
もう一度掛け直したが、携帯を耳にあてても
呼び出し音すら聴こえず、僕は仕方なく懐に
仕舞った。

 「どうした、電話が繋がらんのかね?」

 お爺さんが僕を見上げる。僕は息をつきな
がら頷くと、唇と噛んだ。もしかしたら、水
に濡れた時の不具合がいまになって起こって
いるのかも知れない。電波が悪いのではなく、
この携帯が故障しているのだ。僕はその結論
に思い至ると、お爺さんに言った。
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