罪の在り処

橘 弥久莉

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第五章:罪の在り処

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 「逃げるんだ、佐奈!!早くっ!!」

 そう言って彼がわたしを背に庇ったかと思
うと、埃まみれに立ち上がった当麻卓が刃を
振り翳してくる。

 「おまえかっ!!二人とも殺してやる!!」

 空を切るように、鈍く光る切先が彼めがけ
て十の字に振り下ろされる。ザシュッ、と服
を裂く音がして急所を庇うように両腕を交差
させていた彼の腕に、赤い筋が走った。

 「いやっ、やめて!!」

 「……危ない、佐奈っ!!」

 悲鳴を上げ彼の前に立ちふさがろうとする
わたしの腕を、彼が物凄い力で引き寄せ腕に
抱き締める。彼に抱き締められた瞬間、肩の
向こうに般若のような形相をした当麻が見え、
衝撃と共に彼の体が硬直した。

 「つっ!!」

 「卜部さん!!」

 彼の呻き声がして、わたしは恐怖に涙する。
 彼が刺された。このままでは彼が死んでし
まう。殺されてしまう。お願い、もうやめて。


――殺すならわたしを殺して。


 その願いも空しく、「死ねっ!」という喚き
声が聞こえ、再び彼の体が衝撃に震える。

 「いやあっっ!!!」

 わたしは声の限り、泣き叫ぶ。

 「卜部さん、卜部さんっ!!」

 泣きながら名前を呼ぶわたしを、彼の腕が
きつく、きつく、抱き締める。そうして肩の
向こうで途切れ途切れに、呟いた。

 「……だい……じょうぶ、だから」

 その言葉と共に、当麻卓の体が離れてゆく。
 彼の体から力が抜け、わたしは押し倒され
るようにしながら彼を受け止めた。けれど、
その重みを支えきれず、彼を抱えたまま土と
埃に汚れた床に頽れる。涙に滲んだ視界には、
真っ赤に染まった刃をこちらに向ける憎悪の
化身が映っている。わたしは涙に頬を濡らし
ながら、唇を噛み締めながら、こちらに向か
ってくる男を睨みつけた。


――その時だった。


 「当麻ァッ!!!」

 聞き覚えのある声がして、当麻が声のした
方を向いた瞬間、ぐっ、と、呻き声を上げる。

 「キリンさんっ!!」

 駆け付けてきたキリンさんが包丁を握る手
を掴み、力いっぱい当麻を殴りつけたのだ。

 体当たりの拳を受けた当麻がよろめいた隙
に彼は包丁を握る腕を反対に捻り上げ、その
まま当麻を床に組み敷いてしまう。

 それは一瞬の出来事で、いつの間にか近く
に聞こえていたサイレンの音と共に、たくさ
んの捜査員が雪崩れ込んできて、あっという
間に当麻は拘束されてしまった。

 「当麻卓だな!誘拐、及び殺人未遂の現行
犯で逮捕する!!」

 背後に回された当麻卓の手首に、ガチャリ
と手錠が掛けられる。複数の捜査員に体を押
さえつけられ身動き一つとれなくなった彼は、
顔をこちらに向け喚き散らした。
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