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第五章:罪の在り処
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「離せっ!!あのオンナを殺してない!!
まだ俺の復讐は終わってない!!離せよ!!」
復讐に憑りつかれた赤い瞳が、わたしを射
竦める。底知れぬ恐怖心に体を震わせると、
キリンさんが彼を諫めた。
「憎しみの連鎖を断ち切るんだ、当麻!!
罪を罪で裁くことほど愚かなことはない!!
息子が生きていると信じて待ち続ける母親が
いることを忘れるな!!お前が生きてると知
って涙した母親を、これ以上苦しめるな!!」
その言葉が彼の心に届いたかどうかはわか
らない。けれど涙を流し、千切れてしまいそ
うなほど唇を噛み締めると、当麻卓は抵抗を
やめてしまった。
やがて捜査員に両脇を抱えられ、彼が連行
される。その視界の向こうで、兄が幾人かの
捜査員に保護され、体を起こされている。
目に涙を湛えたまま、その光景を見ていた
わたしの元にキリンさんが駆け寄ってくる。
そしてわたしの前に膝をつくと、彼の顔を
覗いた。
「吾都は!?意識はあるのか!?」
わたしは泣きながら、首を振った。
「大丈夫って言ったきり……反応がなくて」
キリンさんの顔に緊張が走る。
真っ赤に染まった刃を見れば、彼の負った
傷が浅くないことくらい想像がつく。ぐった
りとわたしに体を預けている彼の黒いトレン
チコートを、キリンさんがそっと脱がせた。
脱がせた瞬間、くしゃりと顔を歪める。
「だから一人で動くなと言っただろう!!
救急車だ、はやくっ!!!」
「はっ!!」
キリンさんの怒鳴り声に他の捜査員が動く。
「……っつ」
わたしは真っ赤に染まった白いニットを見、
涙で声を詰まらせた。
「しっかりしろ、吾都っ!!」
キリンさんが自分のコートを脱ぎ床に敷く
と、そこに彼を寝かせる。ベージュのコート
に瞬く間に血が滲んで、わたしは彼にしがみ
ついた。
「卜部さん!!お願いっ、目を開けて!!」
ピクリと彼の瞼が動く。けれど、彼の瞳に
わたしが映り込むことはない。
「傷は二か所か。左上の傷は浅いようだが」
その言葉にわたしは、はっ、とする。
そして震える声でキリンさんに言った。
「きっと彼はわたしが言ったことを憶えて
たんです。前面よりも背中の方が、骨が多い
から助かる確率が高いって」
だから彼は、咄嗟にわたしを抱き締めた。
敵に背中を向け、わたしを刃から守ったのだ。
おそらく、一撃目は肋骨に当たり刃が弾かれ
たのだろう。けれどすぐに繰り出された二撃
目は、背中の右下に肋骨を避けて刺さってし
まった。その傷は、内臓に達しているに違い
ない。
ふいに、卜部さんの呼吸が荒くなった。
「卜部さん!?」
「吾都!!」
血の気を失った彼に二人で顔を寄せる。
寄せた瞬間、ふ、と彼の表情が和らいだか
と思うと、そのまま呼吸が止まってしまう。
わたしは目を見開き慌てて彼の首に触れる。
――指先に触れるはずの脈がなかった。
まだ俺の復讐は終わってない!!離せよ!!」
復讐に憑りつかれた赤い瞳が、わたしを射
竦める。底知れぬ恐怖心に体を震わせると、
キリンさんが彼を諫めた。
「憎しみの連鎖を断ち切るんだ、当麻!!
罪を罪で裁くことほど愚かなことはない!!
息子が生きていると信じて待ち続ける母親が
いることを忘れるな!!お前が生きてると知
って涙した母親を、これ以上苦しめるな!!」
その言葉が彼の心に届いたかどうかはわか
らない。けれど涙を流し、千切れてしまいそ
うなほど唇を噛み締めると、当麻卓は抵抗を
やめてしまった。
やがて捜査員に両脇を抱えられ、彼が連行
される。その視界の向こうで、兄が幾人かの
捜査員に保護され、体を起こされている。
目に涙を湛えたまま、その光景を見ていた
わたしの元にキリンさんが駆け寄ってくる。
そしてわたしの前に膝をつくと、彼の顔を
覗いた。
「吾都は!?意識はあるのか!?」
わたしは泣きながら、首を振った。
「大丈夫って言ったきり……反応がなくて」
キリンさんの顔に緊張が走る。
真っ赤に染まった刃を見れば、彼の負った
傷が浅くないことくらい想像がつく。ぐった
りとわたしに体を預けている彼の黒いトレン
チコートを、キリンさんがそっと脱がせた。
脱がせた瞬間、くしゃりと顔を歪める。
「だから一人で動くなと言っただろう!!
救急車だ、はやくっ!!!」
「はっ!!」
キリンさんの怒鳴り声に他の捜査員が動く。
「……っつ」
わたしは真っ赤に染まった白いニットを見、
涙で声を詰まらせた。
「しっかりしろ、吾都っ!!」
キリンさんが自分のコートを脱ぎ床に敷く
と、そこに彼を寝かせる。ベージュのコート
に瞬く間に血が滲んで、わたしは彼にしがみ
ついた。
「卜部さん!!お願いっ、目を開けて!!」
ピクリと彼の瞼が動く。けれど、彼の瞳に
わたしが映り込むことはない。
「傷は二か所か。左上の傷は浅いようだが」
その言葉にわたしは、はっ、とする。
そして震える声でキリンさんに言った。
「きっと彼はわたしが言ったことを憶えて
たんです。前面よりも背中の方が、骨が多い
から助かる確率が高いって」
だから彼は、咄嗟にわたしを抱き締めた。
敵に背中を向け、わたしを刃から守ったのだ。
おそらく、一撃目は肋骨に当たり刃が弾かれ
たのだろう。けれどすぐに繰り出された二撃
目は、背中の右下に肋骨を避けて刺さってし
まった。その傷は、内臓に達しているに違い
ない。
ふいに、卜部さんの呼吸が荒くなった。
「卜部さん!?」
「吾都!!」
血の気を失った彼に二人で顔を寄せる。
寄せた瞬間、ふ、と彼の表情が和らいだか
と思うと、そのまま呼吸が止まってしまう。
わたしは目を見開き慌てて彼の首に触れる。
――指先に触れるはずの脈がなかった。
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