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第三部:白いシャツの少年
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「確かに、お前の言うことも一理あるな。
……わかった。いまは幼馴染として侑久に
甘えることにする。でも、運悪くお巡りさ
んに見つかった時はすぐに下りるし、その
時はすべての責任を私が取る」
大真面目な顔をしてそう言った千沙に、
侑久は、ふっ、と可笑しそうに笑った。
「またそんな大袈裟な……」
「ぜんぜん、大袈裟なんかじゃない。
見つかって欲しくない時ほど、見つか
ってしまうものなんだ。こんなことで
せっかくの合格がふいになったらどう
する?お前は推薦で受かったんだぞ!」
「はいはい。もうわかったから、
そこ座って」
しゅるりと首に巻き付けていたマフラー
を外して、スチール製のリアキャリアに
敷く。直に座れば硬い質感がそのまま
伝わって千沙が痛い思いをするだろう、
という侑久なりの計らいらしい。ガチャ、
とスタンドを蹴って先にサドルに腰かけ
ると、侑久は「ん」と千沙を促した。
「……あ、ありがと」
まだ侑久の温もりの残るそれに触れると、
千沙はそっとリアキャリアに腰かけた。
マフラーが敷いてあることで、ひんやり
とした冷たさも感じない。
「裏道飛ばして帰るから。しっかり掴ま
って」
落ちないように、遠慮がちにサドルの
縁を掴もうとしていた千沙の手を、ぐい、
と掴んで侑久が自分の腰に回す。そのせい
でピタリと身体が密着してしまい、千沙は
やっと熱が引いたばかりの頬をまた熱くさ
せた。
「じゃ、行くよ」
「お、お願いします」
珍しく、しおらしい声でそう言うと、
自転車は暗がりの中をすっと走り始めた。
千沙は学校の校門を出るまでずっと、
「誰にも見つかりませんように」と祈り
続けていた。
侑久の漕ぐ自転車は、人通りの少ない
裏道を軽やかに走っていった。
学校から自宅までは、片道約25分。
校門を出て左に曲がると、生徒や教員が
よく利用する惣菜屋があり、その隣には
小さな花屋と古びた写真館が並んでいる。
それらの店の灯りが道路まで伸びるその
場所を走り抜け、駅へと続く細い裏道に
入ると、辺りは暗く人影もなかった。
千沙はそのことにほっと胸を撫でおろす
と、徐に口を開いた。
「……智花と帰ったと思ってた」
飛ばして帰ると言ったわりに、緩やかな
スピードで自転車を走らせている侑久に、
独り言のように言う。すると、すぐに
耳を撫でつける風の音に混ざって侑久の
声が聞こえてきた。
「智花は先に帰ったよ。俺は進路指導室
に用があって残ってたんだ」
「進路指導室に?どうして」
「玉置先生に呼ばれてさ。来年度の学校
案内に載せる『卒業生の言葉』を書いて
欲しいって」
「……ああ、あれか。確か男女一人ずつ、
卒業後の進路を載せるんだよな。いかに
本校のカリキュラムと進路指導が素晴ら
しいかを、長々と書かせるんだ」
くつくつ、と笑いながらそう言うと侑久
が肩を竦めたのがわかった。
……わかった。いまは幼馴染として侑久に
甘えることにする。でも、運悪くお巡りさ
んに見つかった時はすぐに下りるし、その
時はすべての責任を私が取る」
大真面目な顔をしてそう言った千沙に、
侑久は、ふっ、と可笑しそうに笑った。
「またそんな大袈裟な……」
「ぜんぜん、大袈裟なんかじゃない。
見つかって欲しくない時ほど、見つか
ってしまうものなんだ。こんなことで
せっかくの合格がふいになったらどう
する?お前は推薦で受かったんだぞ!」
「はいはい。もうわかったから、
そこ座って」
しゅるりと首に巻き付けていたマフラー
を外して、スチール製のリアキャリアに
敷く。直に座れば硬い質感がそのまま
伝わって千沙が痛い思いをするだろう、
という侑久なりの計らいらしい。ガチャ、
とスタンドを蹴って先にサドルに腰かけ
ると、侑久は「ん」と千沙を促した。
「……あ、ありがと」
まだ侑久の温もりの残るそれに触れると、
千沙はそっとリアキャリアに腰かけた。
マフラーが敷いてあることで、ひんやり
とした冷たさも感じない。
「裏道飛ばして帰るから。しっかり掴ま
って」
落ちないように、遠慮がちにサドルの
縁を掴もうとしていた千沙の手を、ぐい、
と掴んで侑久が自分の腰に回す。そのせい
でピタリと身体が密着してしまい、千沙は
やっと熱が引いたばかりの頬をまた熱くさ
せた。
「じゃ、行くよ」
「お、お願いします」
珍しく、しおらしい声でそう言うと、
自転車は暗がりの中をすっと走り始めた。
千沙は学校の校門を出るまでずっと、
「誰にも見つかりませんように」と祈り
続けていた。
侑久の漕ぐ自転車は、人通りの少ない
裏道を軽やかに走っていった。
学校から自宅までは、片道約25分。
校門を出て左に曲がると、生徒や教員が
よく利用する惣菜屋があり、その隣には
小さな花屋と古びた写真館が並んでいる。
それらの店の灯りが道路まで伸びるその
場所を走り抜け、駅へと続く細い裏道に
入ると、辺りは暗く人影もなかった。
千沙はそのことにほっと胸を撫でおろす
と、徐に口を開いた。
「……智花と帰ったと思ってた」
飛ばして帰ると言ったわりに、緩やかな
スピードで自転車を走らせている侑久に、
独り言のように言う。すると、すぐに
耳を撫でつける風の音に混ざって侑久の
声が聞こえてきた。
「智花は先に帰ったよ。俺は進路指導室
に用があって残ってたんだ」
「進路指導室に?どうして」
「玉置先生に呼ばれてさ。来年度の学校
案内に載せる『卒業生の言葉』を書いて
欲しいって」
「……ああ、あれか。確か男女一人ずつ、
卒業後の進路を載せるんだよな。いかに
本校のカリキュラムと進路指導が素晴ら
しいかを、長々と書かせるんだ」
くつくつ、と笑いながらそう言うと侑久
が肩を竦めたのがわかった。
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