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第三部:白いシャツの少年
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「私は侑久が好きです。だから、御堂先生
とは結婚出来ません。ずっと自分の気持ちを
言えないまま、こんな形でお父さんの期待を
裏切ることになってしまって、本当に申し訳
ありませんでした」
謝罪の言葉を口にしながら、額がテーブル
にくっつきそうなほど深く頭を下げる。つい
さっき気持ちが通じたばかりの恋人も、自分
と同じように深く頭を垂れている。
その二人を信じられないと言った顔で凝視
しながら、父はまた声を荒げた。
「なっ、何言ってるんだ。お前は御堂先生
と付き合ってるんだろう?彼に引き合わせた
時だって、何一つ文句を言わなかったじゃな
いか!だいいち、あの学園はどうするつもり
だ。彼はっ……侑久君には後を継ぐことなん
か出来ないんじゃないのか」
子供のころから良く知る侑久に、父が険し
い顔を向ける。侑久には宇宙工学の道に進み
たいという夢があることも、知っている。
父親の指摘にゆっくりと顔を上げると、
侑久は落ち着き払った声で言った。
「お父さんのおっしゃる通り、俺には進み
たい道があります。ですが、千沙さんに学園
を継ぐ以外の選択肢がないというなら……俺
も一緒に学園を守っていく覚悟はあります。
どんな人生でも、俺は千沙さんがいてくれれ
ば幸せです。ですからどうか、御堂先生との
ご縁はなかったことにしてください」
「だっ、ダメだそれはっ!絶対に夢は諦め
ないって、さっき約束したじゃないかっ!!
侑久が夢を諦めるっていうなら、私だって
侑久を諦める。お前の未来を奪ってまで幸せ
になりたいとは思ってないんだからっ」
もう一度、深々と頭を下げている侑久に、
千沙は血相を変えて掴みかかる。そんな風に
取り乱す娘の姿を見るのは初めてで、父親は
隣に座る母親に「あなた」と腕を突かれなが
ら、オロオロし始めていた。
そのやり取りを前に、一人沈黙を守ってい
た智花が「もぉ~」と気の抜けた声を漏らす。
あまりにこの場に似つかわしくない声に、
一同の視線が智花に集中した。
「たっくんはややこしくなるようなこと、
言わないの。だあれも不幸にならないように
智花がひと肌脱いであげたんじゃないのぉ」
くるくると後れ毛を弄びながら智花がため
息を吐く。その様子に一瞬、きょとん、とし
ていた父親は、思い出したように非難の矛先
を智花に向けた。
「そもそもだ、どうして智花があの料亭に
現れたんだ。そんな衣装まで用意して!千沙
が具合悪いなんてのは嘘っぱちで、初めから
この結婚をぶち壊すつもりだったんじゃない
のか?惚けてないで正直に言ってみろっ」
怒りを露わにしながら突っ掛かってきた父
親に、それでも智花は涼しい顔をして肩を竦
めている。
智花は子供のころから芯が強く、それゆえ
に保守的な父親と衝突することも多かったが、
ここまで父親が激高するのは初めてだった。
とは結婚出来ません。ずっと自分の気持ちを
言えないまま、こんな形でお父さんの期待を
裏切ることになってしまって、本当に申し訳
ありませんでした」
謝罪の言葉を口にしながら、額がテーブル
にくっつきそうなほど深く頭を下げる。つい
さっき気持ちが通じたばかりの恋人も、自分
と同じように深く頭を垂れている。
その二人を信じられないと言った顔で凝視
しながら、父はまた声を荒げた。
「なっ、何言ってるんだ。お前は御堂先生
と付き合ってるんだろう?彼に引き合わせた
時だって、何一つ文句を言わなかったじゃな
いか!だいいち、あの学園はどうするつもり
だ。彼はっ……侑久君には後を継ぐことなん
か出来ないんじゃないのか」
子供のころから良く知る侑久に、父が険し
い顔を向ける。侑久には宇宙工学の道に進み
たいという夢があることも、知っている。
父親の指摘にゆっくりと顔を上げると、
侑久は落ち着き払った声で言った。
「お父さんのおっしゃる通り、俺には進み
たい道があります。ですが、千沙さんに学園
を継ぐ以外の選択肢がないというなら……俺
も一緒に学園を守っていく覚悟はあります。
どんな人生でも、俺は千沙さんがいてくれれ
ば幸せです。ですからどうか、御堂先生との
ご縁はなかったことにしてください」
「だっ、ダメだそれはっ!絶対に夢は諦め
ないって、さっき約束したじゃないかっ!!
侑久が夢を諦めるっていうなら、私だって
侑久を諦める。お前の未来を奪ってまで幸せ
になりたいとは思ってないんだからっ」
もう一度、深々と頭を下げている侑久に、
千沙は血相を変えて掴みかかる。そんな風に
取り乱す娘の姿を見るのは初めてで、父親は
隣に座る母親に「あなた」と腕を突かれなが
ら、オロオロし始めていた。
そのやり取りを前に、一人沈黙を守ってい
た智花が「もぉ~」と気の抜けた声を漏らす。
あまりにこの場に似つかわしくない声に、
一同の視線が智花に集中した。
「たっくんはややこしくなるようなこと、
言わないの。だあれも不幸にならないように
智花がひと肌脱いであげたんじゃないのぉ」
くるくると後れ毛を弄びながら智花がため
息を吐く。その様子に一瞬、きょとん、とし
ていた父親は、思い出したように非難の矛先
を智花に向けた。
「そもそもだ、どうして智花があの料亭に
現れたんだ。そんな衣装まで用意して!千沙
が具合悪いなんてのは嘘っぱちで、初めから
この結婚をぶち壊すつもりだったんじゃない
のか?惚けてないで正直に言ってみろっ」
怒りを露わにしながら突っ掛かってきた父
親に、それでも智花は涼しい顔をして肩を竦
めている。
智花は子供のころから芯が強く、それゆえ
に保守的な父親と衝突することも多かったが、
ここまで父親が激高するのは初めてだった。
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