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第一部:恋の終わりは
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「1回!いいですよ、それでも。僕は
そのたった一度のデートに想いを詰め込め
ばいいだけだ」
あなたを落とすためにね、と付け加え、
妖艶な眼差しを向ける。紫月はその瞳に
どきりとしながら、いいえ、と肩を竦めた。
「今のは冗談です。でも、二週間という
期限付きでは会える回数なんて、たかが
知れていますよね。私もあなたも、仕事が
あるわけですし。だから……」
紫月はそこで言葉を途切り、思案した。
また、一久の顔が浮かんでしまう。
自分が婚約者として彼に会えたのは、
たった3回。
そうして、その3回目に諦めることを
決めた。
-----ならば。
「3回、あなたが渡英するまでにデートし
ます。それでよろしいですか?」
「OK. That’s enough.」
(それで十分です。)
唐突に、滑らかな英語でそう言って彼が
白い歯を見せる。紫月は何やら奇妙な展開
になってしまったと、内心、ため息をつき
ながらも、彼と過ごせるであろうその三日間
が、不思議と楽しみだった。
「それともう一つ」
話がひと段落し、まだ一口しか飲んでい
ないシャンパンに手を伸ばしかけた紫月に、
月城玲が人差し指を立てる。その指を形の
良い唇にあてると、彼は悪戯っ子のような
笑みを浮かべて言った。
「仮初めとは言え、僕たちは婚約者です。
だから、ここからはお互い敬語は無し。
フランクに行きましょう」
そう言った本人がまだ敬語のままだと
気付き、紫月は思わずくすりと笑う。
本当に可笑しな人だ。
ゲームだの、敬語は禁止だの、彼と一緒
にいると次は何を言い出すのだろう?と
思いを巡らせてしまいそうで、飽きそうに
ない。
「わかったわ。敬語は禁止ね」
くすくす、と、肩を揺すりながらそう
言った紫月に目を細める。その眼差しが
あまりに優しいものなので、紫月は頬が
熱くなってしまいそうだった。
「それともう一つ」
「まだ何かあるの?」
シャンパンに口を付けた紫月に、さらに
彼がそう口にしたので、紫月は眉を顰めた。
次は何を言い出すのだろう?
紫月の思考は、すっかり彼に釘付けに
なっている。
「そう言わないで。僕のことは“レイ”と
名前で呼んで欲しいってだけ。僕もあなた
のことは紫月と呼びたいし、どうかな?」
“紫月”と、初めて名前を呼ばれ、トクリ
と胸が鳴った。
彼、一久には一度も名前を呼んでもらえ
なかった。
「いいわ、レイ。私のことも紫月と呼んで」
何となく気恥ずかしくて、紫月はそう言う
と彼から視線を外し、シャンパンの気泡を
見つめた。パチパチと、泡色の液体の中で
細かな泡が弾けている。それは、少しずつ
変化してゆく自分の心を表しているように
も見えて、紫月は僅かに口元を緩めた。
「じゃあ紫月、そろそろ食べようか」
さっそく、自分の名を呼んだ彼は、もう、
初めて会った人の顔をしてはいなかった。
ええ、と頷くと、紫月は仮初めの婚約者に
柔らかな笑みを向けた。
そのたった一度のデートに想いを詰め込め
ばいいだけだ」
あなたを落とすためにね、と付け加え、
妖艶な眼差しを向ける。紫月はその瞳に
どきりとしながら、いいえ、と肩を竦めた。
「今のは冗談です。でも、二週間という
期限付きでは会える回数なんて、たかが
知れていますよね。私もあなたも、仕事が
あるわけですし。だから……」
紫月はそこで言葉を途切り、思案した。
また、一久の顔が浮かんでしまう。
自分が婚約者として彼に会えたのは、
たった3回。
そうして、その3回目に諦めることを
決めた。
-----ならば。
「3回、あなたが渡英するまでにデートし
ます。それでよろしいですか?」
「OK. That’s enough.」
(それで十分です。)
唐突に、滑らかな英語でそう言って彼が
白い歯を見せる。紫月は何やら奇妙な展開
になってしまったと、内心、ため息をつき
ながらも、彼と過ごせるであろうその三日間
が、不思議と楽しみだった。
「それともう一つ」
話がひと段落し、まだ一口しか飲んでい
ないシャンパンに手を伸ばしかけた紫月に、
月城玲が人差し指を立てる。その指を形の
良い唇にあてると、彼は悪戯っ子のような
笑みを浮かべて言った。
「仮初めとは言え、僕たちは婚約者です。
だから、ここからはお互い敬語は無し。
フランクに行きましょう」
そう言った本人がまだ敬語のままだと
気付き、紫月は思わずくすりと笑う。
本当に可笑しな人だ。
ゲームだの、敬語は禁止だの、彼と一緒
にいると次は何を言い出すのだろう?と
思いを巡らせてしまいそうで、飽きそうに
ない。
「わかったわ。敬語は禁止ね」
くすくす、と、肩を揺すりながらそう
言った紫月に目を細める。その眼差しが
あまりに優しいものなので、紫月は頬が
熱くなってしまいそうだった。
「それともう一つ」
「まだ何かあるの?」
シャンパンに口を付けた紫月に、さらに
彼がそう口にしたので、紫月は眉を顰めた。
次は何を言い出すのだろう?
紫月の思考は、すっかり彼に釘付けに
なっている。
「そう言わないで。僕のことは“レイ”と
名前で呼んで欲しいってだけ。僕もあなた
のことは紫月と呼びたいし、どうかな?」
“紫月”と、初めて名前を呼ばれ、トクリ
と胸が鳴った。
彼、一久には一度も名前を呼んでもらえ
なかった。
「いいわ、レイ。私のことも紫月と呼んで」
何となく気恥ずかしくて、紫月はそう言う
と彼から視線を外し、シャンパンの気泡を
見つめた。パチパチと、泡色の液体の中で
細かな泡が弾けている。それは、少しずつ
変化してゆく自分の心を表しているように
も見えて、紫月は僅かに口元を緩めた。
「じゃあ紫月、そろそろ食べようか」
さっそく、自分の名を呼んだ彼は、もう、
初めて会った人の顔をしてはいなかった。
ええ、と頷くと、紫月は仮初めの婚約者に
柔らかな笑みを向けた。
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