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第一部:恋の終わりは
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「僕はあなたが好きです。本当にね。
でも、あなたは僕が好きなわけじゃない。
だから、婚約は仮のままにしましょう」
「えっ???」
思いがけないその言葉に、紫月はシパ
シパと瞬きをした。彼はくすりと笑って、
小首を傾げている。
会ってみなければわからないから、仮の
婚約なのではなかったか?
自分が彼を好きじゃないのは、仕方の
ないことだ。なのに仮のままとは、どう
いうことだろう?
おそらく、きょとん、という表現が相応
しい顔をしていたのだろう。彼は笑みを
深め、けれど真剣な眼差しを紫月に向けた。
「僕もね、あなたと同じなんですよ。
愛がないなら、要らない。あなたが好きだ
から、気持ちのないあなたといても僕は幸せ
になれないんです。だから、ゲームをしまし
ょう」
「ゲーム???」
ますます彼の真意が見えなくなり、紫月
は眉を寄せる。揶揄っているのか、それと
も本気で言っているのか?
おそらく、後者なのだろう。
真剣な顔でゲームをしようと言ったその
人の真意を探ろうと、紫月はじっと耳を
傾けた。
「そう。僕は二週間後、渡英しなければ
なりません。向こうで新規事業の立ち上げが
ありましてね。日本を発ってしまえば最低
半年は戻れない。だから、日本を発つまでの
間に、僕とデートをして欲しいんです。デー
トの回数はあなたが決めてくれて構いません。
指定された回数のうちに、僕があなたの心を
奪うことが出来れば、正式に婚約。僕と共に
渡英して欲しい。けれど、最後まであなたの
心を奪えなければ、僕たちはそこでおしまい
です。この婚約は仮初めのまま、解消しま
しょう」
そう言って懐から白い封筒を取り出し、
紫月の前に差し出す。彼の突飛な発想に
戸惑いながらもそれを手に取ってみれば、
そこには国際線のチケットが1枚入って
いる。行き先は、ロンドンだ。
「つまり、結論はこのチケットを持って
空港に行くか否かで決まる、ということで
すか?」
「その通りです」
間髪を入れずそう答えた彼に、紫月はまた
言葉を失ってしまう。このまま、正式に
婚約を交わせば、彼は自分を失わずに済む
というのに………
けれど、心のない相手を縛り付けても
決して幸せにはなれない。その答えを、
自分は知ったばかりではないか?
紫月はチケットを封筒に戻し、小さく
頷いた。
彼の提案もまた、断る理由がなかった。
「デートの回数は、私が決めていいんで
すね?」
「もちろん。あなたが自由に決めてくだ
さい」
「1回でも構わない、ということですか?」
余裕の笑みを浮かべるその人に、紫月は
少々意地悪な質問をする。まるで、“自分が
恋に落ちることは決まっている“とでも言い
たげな、揚々とした態度を崩してみたかった。
が、彼の表情は微塵も崩れない。
それどころか、愉しくて仕方ないといった
様子で「ははっ」と声を上げたので、紫月は
意地悪なことを言ってしまった自分が少し
恥ずかしかった。
でも、あなたは僕が好きなわけじゃない。
だから、婚約は仮のままにしましょう」
「えっ???」
思いがけないその言葉に、紫月はシパ
シパと瞬きをした。彼はくすりと笑って、
小首を傾げている。
会ってみなければわからないから、仮の
婚約なのではなかったか?
自分が彼を好きじゃないのは、仕方の
ないことだ。なのに仮のままとは、どう
いうことだろう?
おそらく、きょとん、という表現が相応
しい顔をしていたのだろう。彼は笑みを
深め、けれど真剣な眼差しを紫月に向けた。
「僕もね、あなたと同じなんですよ。
愛がないなら、要らない。あなたが好きだ
から、気持ちのないあなたといても僕は幸せ
になれないんです。だから、ゲームをしまし
ょう」
「ゲーム???」
ますます彼の真意が見えなくなり、紫月
は眉を寄せる。揶揄っているのか、それと
も本気で言っているのか?
おそらく、後者なのだろう。
真剣な顔でゲームをしようと言ったその
人の真意を探ろうと、紫月はじっと耳を
傾けた。
「そう。僕は二週間後、渡英しなければ
なりません。向こうで新規事業の立ち上げが
ありましてね。日本を発ってしまえば最低
半年は戻れない。だから、日本を発つまでの
間に、僕とデートをして欲しいんです。デー
トの回数はあなたが決めてくれて構いません。
指定された回数のうちに、僕があなたの心を
奪うことが出来れば、正式に婚約。僕と共に
渡英して欲しい。けれど、最後まであなたの
心を奪えなければ、僕たちはそこでおしまい
です。この婚約は仮初めのまま、解消しま
しょう」
そう言って懐から白い封筒を取り出し、
紫月の前に差し出す。彼の突飛な発想に
戸惑いながらもそれを手に取ってみれば、
そこには国際線のチケットが1枚入って
いる。行き先は、ロンドンだ。
「つまり、結論はこのチケットを持って
空港に行くか否かで決まる、ということで
すか?」
「その通りです」
間髪を入れずそう答えた彼に、紫月はまた
言葉を失ってしまう。このまま、正式に
婚約を交わせば、彼は自分を失わずに済む
というのに………
けれど、心のない相手を縛り付けても
決して幸せにはなれない。その答えを、
自分は知ったばかりではないか?
紫月はチケットを封筒に戻し、小さく
頷いた。
彼の提案もまた、断る理由がなかった。
「デートの回数は、私が決めていいんで
すね?」
「もちろん。あなたが自由に決めてくだ
さい」
「1回でも構わない、ということですか?」
余裕の笑みを浮かべるその人に、紫月は
少々意地悪な質問をする。まるで、“自分が
恋に落ちることは決まっている“とでも言い
たげな、揚々とした態度を崩してみたかった。
が、彼の表情は微塵も崩れない。
それどころか、愉しくて仕方ないといった
様子で「ははっ」と声を上げたので、紫月は
意地悪なことを言ってしまった自分が少し
恥ずかしかった。
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