恋の終わりは 【恋に焦がれて鳴く蝉よりも・番外編】

橘 弥久莉

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第一部:恋の終わりは

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 「人間の欲には際限がないからね。お金
をかけようと思えば、いくらでもかけられ
るし、それが手に入ったら次はもっと高価
な物が欲しくなる。だから、僕はそれが
好きか、嫌いか、欲しいか、欲しくないか
だけでシンプルに選ぶことにしてるんだ。
それがどんなに安いものでも、気に入って
いれば気持ちは満たされるし、いつまでも
大事に使うからね。紫月はどう?高価なも
のを身に付けていないと、自分らしくいら
れない?」

 ストレートに、そんなことを問いかけら
れて、紫月は一瞬、言葉に詰まってしまう。

 彼ほどではないにしろ、膨大な資産を
保有する安永財閥の令嬢として、自分は
それなりの物を買い与えられてきた。

 けれど、それらの物がなければ自分らし
くいられないと思ったことは、一度もなか
った。

 良いものを身に付けているかどうかで、
人の価値が決まるのではない。自分自身を
価値がある存在だと思えるかどうか。

 その気持ちが、人の心を一番裕福にする
のだと紫月は思っている。

 「私自身の価値は、身に付ける物の値段
で決まるわけじゃないわ。だから、好き好ん
で高価な物を選ぼうとは思わない。あなたと
同じように、自分が気に入ったものを選びた
い。それが似合えば、一番いいと思うわ」

 そう答えた紫月に目を細めると、レイは
前を向いてアクセルを踏んだ。車が走り出
す。フロントガラスの向こうには、澄んだ
青空が広がっている。

 「良かった。僕たちは価値観が似ている
ようだ」

 その言葉に、紫月も頬を緩める。

 レイは惜しみなく、“自分”という人間を
紫月に見せてくれる。それはきっと、好き
だから自分を知って欲しいという、恋い
慕う気持ちからくるものだのだろう。

 そして、一久が進んで自分を見せてくれ
たことは、一度もなかったと………今に
なって気付く。気付いてしまえば、また、
ちくりと胸が痛んでしまう。どうして、
思い出したくなどないのに、彼のことが
頭から離れないのだろう?

 紫月は緩く唇を噛み、そうして、それを
振り切るようにレイに話しかけた。

 「それはそうと、そろそろ今日の行き
先を教えてくれない?どこに連れていか
れるのか、わからないまま乗っているのも
誘拐されているみたいで落ち着かないわ」

 口を尖らせてそう言うと、はは、と
レイはまた白い歯を見せる。

 車は東名高速に乗ったところで、目的地
までどれくらいかかるのかも、気になる。
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