恋の終わりは 【恋に焦がれて鳴く蝉よりも・番外編】

橘 弥久莉

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第一部:恋の終わりは

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-----答えは、とうに決まっていた。



 だから、家へと帰宅した紫月は、入浴
を済ませ、手際よく荷造りを始めた。

 パスポートに国際線のチケット。

 それらは機内に持ち込む手荷物にしまう。
 明日から冬期休暇に入る。
 だから冬休みが終わるころに、自分は
いったん日本に戻ることになるだろう。

 その間の日数を考えながら、必要な服や
私物をスーツケースに詰め込む。

 まるで、迷いを断ち切るように、
何も考えずに紫月はせっせと荷物を
詰め込んだ。そうして、荷造りを終えると、
ほっと息をつきデスクに腰かけた。

 やけに片付いた部屋を眺めていると、
やはり、あの人のことが気になってしまう。
 紫月は何となくパソコンを開き、そして
検索した。



-----サカキグループ 榊一久。



 そう打ち込んでEnterキーを押す。

 が、出てくる記事は『サカキグループ吸収
合併』と『専務辞任』の文字ばかりで、彼の
その後を知ることは出来ない。

 紫月はため息をつき、デスクに突っ伏した。

 あの時の、レイの傷ついたような顔が脳裏
に浮かぶ。いま、自分が向き合わなければなら
ないのは彼なのに、いつまで心に“あの人”を
留めているのか……。

 もう婚約者でもなく、妻にもなれなかった
自分が出来ることは何もないのだ。

 「大丈夫よね、きっと……」

 紫月はぽつりとそう呟き、目を閉じた。










 「待ち合わせ場所まで、ご一緒致しま
しょうか?」



-----翌日の早朝。



 成田空港のロータリーで車を停め、後部座席
の紫月を振り返った景山に、紫月はゆるりと
頭を振った。

 「大丈夫よ。もう何度も来てるから勝手
がわかっているし。一人で行くわ」

 そう言って車を降りると、景山は水色の
グラデーションカラーがお洒落なスーツ
ケースをトランクから下ろしてくれた。

 それを受け取ると、紫月はひらりと彼に
手を振る。

 「ありがとう。じゃあ、行ってくるわね」

 「はい、お嬢様。どうぞお気を付けて」

 深々と頭を下げ、そう言った景山に微笑む
と、紫月はレイから渡されたメモを手に
颯爽と歩き始めた。










 成田空港第1ターミナル南ウイング1階は、
フロアの半分近くが国際線到着ロビーと
なっている。その一角、エレベーター横の
奥まった場所に青い椅子が並んでいる所が、
待ち合わせによく使われるミーティング
ポイントだった。

 紫月はその場所に辿り着くとレイの姿を
探した。が、彼の姿は見当たらない。

 まだ、待ち合わせの時刻まで10分近く
あるからか。紫月は一度辺りを見渡すと、
空いている椅子に腰かけた。

 そうして、メモに目を落とす。
 待ち合わせ場所が記されたそれと、同じ字
で書かれたもう一枚のメモ。あの夜、レイ
が自分の部屋に差し入れたものだ。
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