彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode2 おかしな三角関係

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「旅館についても、のんびり休憩ってわけには

行かないしね。もう少し静かだったら、寝られるん

だけどなぁ」

つばさは、欠伸をひとつして真理に笑んだ。

「結構歩いたから、疲れたよね。あ、良かったら

食べる?さっき、お土産屋さんで買ったヤツ」

つばさの手の平にコロコロしたチョコレートが

3つ、4つ、と転がる。

「さんきゅ~。あ、ギャバ入りだ」

つばさは真理がくれたチョコレートを口の中に放り

込むと、口の中に広がるビターな甘みを噛みしめた。

修学旅行一日目の日程は無事に終わり、後は今日から

宿泊する宿に向かうのみだ。いくつか観光名所を回って

歩いたが、裏見の滝としても知られるNヶ滝は、滝壺の

奥から水のカーテンを見ることができて一番良かった。

マイナスイオンを浴びたおかげか、肌もつるつるだし、

今のところ、心配していた心霊的なトラブルもない。

斗哉もつばさを気にかけて、何度か声をかけに来てくれ

たが、旅はいたって順調だった。つばさたちを乗せた

バスは、A山麓の宿舎に向かって山道をくねくねと進んだ。

運転席の隣に立つバスガイドは、相変わらず元気な声で

トークを続けていたが、旅の疲れも手伝って、つばさは窓に

頭を預け、目を閉じた。


その時、不意に何かを感じて、つばさは閉じたばかりの目を

開けた。惹き付けられるように窓の外を見れば、一台の黒い

バイクが並走している。ツーリングだろうか?

それにしても、何だか違和感がある。つばさは、すっかり暗く

なった山道を並走するバイクを眺めて、はっ、とした。

いま、このバスが走っている山道は一車線だ。ということは、

ずっと隣を走っているこのバイクは、逆走していることになる。

そのことに気付いた瞬間、反対車線から来た乗用車が、

すっ、っとそのバイクを通り抜けた。

「!!!!」

衝突事故を起こすこともなく、そのバイクはバスの隣りを走り

続けている。と、言うことは、やっぱり………

つばさは、慌ててそのバイクから目を逸らそうと、した。

が、遅かった。目を逸らそうとした直前、シルバーの

ヘルメットを被ったライダーが、こちらを向いてしまう。

クリアーなシールドの向こうから、切れ長の双眸が

じっと、つばさを見つめた。男の人だ。それも、若い男の人。

つばさは、何故だかその人から目を離せずに、見つめ

合ってしまった。何だか、とても悲しそうだ。そう思った時、

突然、ポン、と誰かがつばさの肩を叩いた。

「ひっ!!!」

驚いて横を向けば、真理がつばさの顔を覗き込んでいる。

「なっ、なに!?」

「さっきからずっと、何見てるの?」

「えっ……と、き、キリンが」

「えっ、国道にキリン????」

咄嗟に、口を突いて出た言葉に、真理が目を丸くする。

こんな山道を、しかもキリンが走っていたら珍事件だ。

「ごめん!間違えた。タヌキ!!タヌキがいたの」

あはは、と笑って誤魔化すつばさに、

首を伸ばして窓の外を覗いた真理が肩を竦める。

「びっくりした。タヌキか。山道だからシカやタヌキは

出るわよ。もう、いないみたいだけど」

そう言われてまた、窓の外を見ると、そこにもう、

あのバイクは走っていない。どこか別の場所へ

行ってしまったのだろうか?つばさは、ほっと胸を

撫で下ろすと、ブレザーのポケットに忍ばせてある

護符にそっと触れた。
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