彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode2 おかしな三角関係

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「ねぇ。雨具って、折り畳み傘だけでいいかな?

カッパは要らないよねぇ?」

夕食後、いつものベランダで、つばさは修学旅行の

しおりを手に、斗哉に聞いた。

「小学生じゃないんだから、カッパは要らないだろ」

すでに荷造りを終わらせたらしい斗哉が、

まだ、乾ききっていない前髪を掻き上げて言う。

つばさは、そっか、と頷いて持ち物欄に水性ペンで

チェックを入れた。後は、さっきコンビニで買ってきた

歯ブラシセットを入れれば完璧だ。

斗哉の不意打ちキスに突然の告白という、

大事件で幕を閉じたあの学園祭から、ひと月が過ぎた。

が、あの日の告白からこっち、二人の関係は

何ひとつ変わっていない。その理由は、あえて斗哉が

それ以上のリアクションを起こさなかったという事と、

あえてその事につばさも触れなかったという事と。

他にも、合唱コンクールやら体育祭やらイベント

が目白押しで、そんな空気にもならなかったのだ。

そして、明日からは2泊3日の修学旅行である。

秋は何かと忙しい。

「あーあ。何だか気が重いなぁー」

本当なら、楽しいはずのイベントを明日に控え、

つばさは浮かない顔でため息をついた。

「あぁ、澄子さんが言ってた、あれだろ?」

斗哉はベランダの柵に肘をついて、眉を顰めた。


実は、昨日、遠方に住む祖母の澄子から手紙が

届いたのだ。その手紙には、明日から修学旅行に

行く方角が、つばさにとって大凶星であることと、

いざという時のために同封した護符を持ち歩くこと

が記されていて……何やら、経文のような、鳥居を

描いたような紙が、ぺら、と1枚入っていたのである。

そもそも、修学旅行に行くことなど祖母に話した覚えは

ないのだが……まあ、それはそれ。

自他ともに認める霊能力者である祖母に、行く先で悪い

ことが起こるぞと言われれば、修学旅行だ、思い出だと、

胸が弾むわけもない。


「これがあれば、大丈夫かなぁ?」

祖母、澄子が書いたであろう護符を眺めながら、

つばさはまた、息をついた。祖母を信じていない

わけではないが、こんな紙1枚で厄災を祓えるのか、

不安になってしまう。

「とにかく、肌身離さず持っておけよ。役に立つと思う

から澄子さんも送ってくれたんだろうし。俺も出来るだけ

お前の側にいるようにするけど……別の班だからな」

眉間のシワを深くして、斗哉がじっと見つめる。

つばさは何だか恥ずかしくなって、つい、と目を

逸らした。夜風で冷えていた筈の、頬が熱い。

「う、うん。ちゃんと、持って歩くよ。

じゃあ、明日早いし、そろそろ寝るね」

斗哉のまっすぐな視線から逃げるように、早々と

会話を切り上げると、つばさは、おやすみ、と

笑ってベランダの窓を閉めた。



「はい。皆さま、Nヶ滝周辺の散策、お疲れさまでした!!

いかがでしたか?お天気にも恵まれ、最高の景色を

堪能できたんじゃないかと思います!これよりバスは……」

生徒たちの私語を掻き消すような、添乗員の声が

狭い空間に響きわたって、つばさは思わず顔を顰めた。

昨夜はぐっすり眠れたのだが、早朝の新幹線に乗り

込むスケジュールのため、今朝は4時半起きだ。

寝不足の頭に、バスガイドさんの声が響く。

「どした?頭でも痛いの?」

頬杖をついて、窓の外を眺めていたつばさに、

隣りに座る真理が声をかけた。

「うーん、ちょっと寝不足かも」

つばさは、はは、と肩を竦めた。

「私も。朝早かったもんね」

真理はいつも通り、綺麗にスタイリングされた髪を、

さらりと掻き上げ、笑う。ふわ、と甘い香りがつばさの

鼻にまで届いた。どうやらシャンプーもしてきたらしい。

方や、つばさの後頭部には見事な寝癖が残った

ままで……女子力の差は計り知れない。
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