彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode2 おかしな三角関係

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つばさは、自分の側にいる筈の涼介を振り返った。

あれ?いない。ついさっきまで、一緒にいたのに。

どこに行ってしまったのだろう?

どうぞ、と加奈子が奥のリビングに入って行く。その後

に続きながら、つばさは斗哉のコートをつん、と引っ張った。

「どうした?」

斗哉が耳を近づける。きょろきょろと、落ち着かない

つばさの様子に気付いていたのだろう。つばさは、

ヒソヒソ声で言った。

「涼介がいなくなっちゃった」

「あいつが?」

「うん。どこ行っちゃったんだろう?」

つばさが顔を顰めて斗哉を見上げる。

斗哉は、さあ、と首を傾げ、早口で言った。

「とにかく、今は彼女の話を訊くことが先決だろう?

自分のことをあれこれ語られるのが嫌で、外にいる

のかもしれないし、あとで探そう」

斗哉にそう言われて頷くと、つばさはリビングへ入った。



「それで、涼介のことですけど……」

何を、どう訊ねればいいのかわからない、と言った

様子で口ごもると、加奈子はつばさの顔を覗き込んだ。

つばさも、緊張した面持ちで頷く。涼介のことを語るには、

まず、3日前に出会った時のことから話さなければなら

ない。つばさは、出来るだけ要点を掻い摘んで、

加奈子に話した。



「その場所は、あの人が事故で亡くなった国道なんです」

一通り、話を聞き終えた加奈子は、自分の両腕を握りしめ

るようにして、言った。つばさは頷く。ライダーにとって、

美しい景色や自然を楽しめる山道はツーリングの王道だが、

そのツーリング中に命を落とす者も多い。涼介の場合も、

反対車線からはみ出してきたトラックと正面衝突して……

即死だったらしい。

「危ないからやめて欲しい、って止めたこともあったんです。

でも、あの人、本当にバイクが好きで、日本各地を一人で

回ったこともあるくらい。大丈夫だから、気を付けるから、

って言われればそれ以上何も言えなくて……」

加奈子さんが、言葉を詰まらせる。大切な人を亡くした人たちは、

皆苦しむのだ。ああすれば良かった、こう言えば良かったと、

後悔の念に苛まれてしまう。つばさは、そんな人たちを何人も

見てきた。

「あの、立ち入ったことを訊いてすみませんが、

ご結婚は、いつ頃されたんですか?」

つばさは、加奈子の顔を覗き込んだ。涼介は死んでから

8年経つと言っていた。そして、その時には彼女のお腹に

子供がいたのだ。加奈子さんのことを話した時、涼介は

涼しい顔をして「結婚して子供もいる」と言っていたけれど……

もしかしたら、心のどこかで嫉妬しているのかもしれない。


「5年ほど前です。娘が、2歳の時に。ずっと、この子と

二人で生きていこう、って思ってたんですけど……

ある日、涼介が夢に出てきて、幸せになれって、そう

言ってくれて………だから」

加奈子の声が揺れた。つばさも、つん、と鼻先が痛んで

口元を押さえる。やっぱり、涼介は涼介だ。

彼は夢枕に立って、加奈子さんの背中を押したに違いない。

ちゃんと幸せになれ、と、夢の中でそう伝えたのだ。

その涼介が、見知らぬ男に家族を取られたからといって、

嫉妬するわけがない。一瞬でも、涼介の優しさを疑って

しまったことを、つばさは後悔した。じゃあ、なぜ、

涼介は成仏しないのか?その答えは一向に見つからない。

「あの」

すん、と鼻を啜っている加奈子に、ずっと黙って話を

訊いていた斗哉が声をかけた。

「もし良かったら、涼介さんの写真を、見せてもらえ

ませんか?コイツには彼が見えてるんですけど、

俺は話に訊いているだけで、彼の顔を知らないんです」

「ええ……はい。ちょっと、待ってもらえますか?」

一瞬、戸惑ったように目を見開いて、加奈子は席を立った。

どうやら、涼介の写真は二階にあるらしい。パタパタと、

階段を上る足音が聴こえる。つばさは、ちら、と斗哉に

目をやった。
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