彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode2 おかしな三角関係

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「涼介の、ゆうれい?」

加奈子の顔が見る見るうちに険しいものに変わる。

つばさは、数秒後に、彼女の口から飛び出してくるで

あろう、言葉の数々を想像しながら、頷いた。

「そんなことっ……どこであの人の情報を調べたのか

知りませんが、宗教の勧誘なら結構です。帰ってください!」

ほぼ予想通りの言葉を投げかけて、バタン、と加奈子が

扉を閉める。仕方がないとは言え、毎度毎度このくだりは

否定されるつばさも辛い。


それでも、つばさはめげずに、ドア越しに加奈子に

話しかけた。

「信じられませんよね、こんなこと。でも、本当なんです!

初めてのクリスマスにあなたが二時間も遅刻したこととか、

涼介が水色のストールをあなたにプレゼントしたこととか、

涼介、昨日のことのように話してくれました。その涼介が、

ずっと彷徨ってるんです!!どうしてだかわからないけど、

天国に行けなくて……だから私っ」

そこまで言って言葉をとぎったつばさの目の前で、

閉ざされたばかりの扉が、開いた。再び、ドアの隙間から

加奈子が顔を出す。その頬が濡れているのを見て、

つばさは微笑んだ。

「クリスマスの日は、涼介の携帯が壊れてて、連絡が取れ

なかったんですよね?だけど、涼介はずっとあなたを待っ

てた。私、涼介のそういう優しいところに、何度も救われた

んです。だから、今度は私が涼介の役に立ちたくて……」

心から、そう思いながら言ったつばさに、加奈子が

涙に濡れた目を向ける。

「涼介が、彷徨ってるって……本当なの?

どうして、あの人がそんなことに……」

口元を押さえ、嗚咽を堪える加奈子に、つばさは首を

傾げる。それが知りたいから、自分はいま、ここに居るのだ。

その答えは、できれば加奈子の口から聞きたい。



「いま、家族は出掛けていて、いないんです。

どうぞ……あがってください」

加奈子がドアを開けて、中に入るよう促す。つばさは、

一度斗哉と顔を見合わせると、お邪魔します、と頭を

下げて、加奈子が用意してくれたスリッパに足を通した。

そして、玄関を上がってすぐ、下駄箱の横に飾って

ある写真を見て立ち止まった。大きな木製のフレームに

何枚かの家族写真が並んでいる。良く見れば、その

フレームの中にいる女の子は、さっき道で通り過ぎた

その子で、父親もまた同一人物だ。つばさは、やっぱり、

と心の中で得心とくしんしながら、もうひとつ、

加奈子に気になっていることをたずねた。

「あの、この写真の女の子って、もしかして………」

加奈子と父親の真ん中で、にっこりと女の子が笑っている

写真を指差し、呼び止める。すると、加奈子は振り返って、

少し寂しそうに頷いた。

「娘です。と言っても、実の父親はその人じゃなくて、

本当は涼介の子なんですけど……彼が亡くなった直後に

妊娠を知って………だから、涼介は何も知りません」

つばさは、さっき見た涼介の眼差しを思い出して、

唇を噛んだ。涼介が、知らないわけがない。

だから、あんな目をして、女の子を見つめていたのだ。

自分によく似た、娘の姿を。

涼介は、だからこの世に留まっているのだろうか?

一度も、触れることさえ叶わなかった、娘の行く末を

見守るために……
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