彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode2 おかしな三角関係

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視界に映る見知らぬ街の風景は新鮮で、この街の

どこかに、夢で見た涼介の恋人が暮らしているのだと

思うと、なぜだか切なかった。つばさは、バスを降りる

までの間、ひと言も喋らずじっと窓の外を眺めていた。

「ねぇ、この道で合ってるんだよね?」

バスを降りてから約15分という道のりを、涼介の

ナビで歩いていたつばさは、前を歩くその背中に

問いかけた。つばさたちが歩いている道は、同系色の

一戸建てが並ぶ閑静な住宅街だが、坂道だ。まだ、

修学旅行の疲れが残る体に、坂道はこたえる。

「合ってるよ。もう少し先の、高台だから」

歩いている、というよりも、すーっ、と滑るような足取り

で先を行っていた涼介が振り返って言った。その声が

聴こえていない斗哉が、つばさの手を握る。

つばさは、どきりとして斗哉を向いた。

「道は合ってるよ。昨日地図で見た感じだと、

坂を上がってすぐ右の建物だ」

脚を前に出すのが辛そうなつばさの手を引いて、

斗哉が一歩先を歩く。

「う、うん」

つばさは、何気なく繋がれた左手に、頬を赤くしながら、

ぎこちなく頷いた。その時、前方から小さな女の子を

連れた男性が歩いてきた。柔らかそうな髪をツインテール

に結んだ可愛らしい女の子と、たぶん父親だ。つばさは、

その親子が横を通り過ぎる瞬間、ふと、何かを感じた。


涼介を見る。通り過ぎた女の子の背中を見つめる、

涼介の眼差しが、どこまでも優しい。もしかして………

つばさは、ひとつの可能性に気付きながら、そのことを

涼介に訊くことはしなかった。



「ここか」

坂を上がりきってまもなく現れた、オレンジ色の屋根をした

一軒家を見て、斗哉が立ち止まった。表札を確認すれば、

《中村》と記してある。加奈子は結婚して、高橋から

中村に姓が変わったことを涼介から聞いていたから……

ここが、彼女の家であることは間違いない。つばさは、

斗哉の手を離すと、一度深呼吸をしてインターホンを押した。

ピンポン、と軽やかな音が家の中に響くのが聴こえる。

けれど、返って来る声はない。つばさは、眉を顰めて

斗哉の顔を見上げると、もう一度インターホンを押そうと、

した。その時。


「はい?どちら様ですか」

僅かに緊張した声がして、つばさはごくりと唾を呑んだ。

加奈子が家にいてくれた。そのことに安堵するのと

同時に、別の不安がやってくる。つばさは、いつものように

鞄から学校のIDカードを取り出すと、インターホンのカメラ

越しに、加奈子に見せた。

「あの、お休みの日に、突然すみません。

私、青山中央高校の藤守つばさと言います」

「はあ……」

何の接点もない、見ず知らずの学生からいきなり

自己紹介をされた加奈子が、声に警戒心を含める。

ちら、とつばさが目配せをすると、斗哉がつばさに

変わって、インターホン越しに話しかけた。

「突然ですが、武田 涼介という男性をご存知ですよね?

実は、彼のことについて、いくつかお話を聞かせて

もらいたいんです。少しお時間をいただけませんか?」

斗哉が落ち着いて涼介の名を口にすると、はっ、と

息を呑む気配があって、すぐに加奈子が玄関に顔を

出した。真っ黒な髪を肩口まで伸ばした、美人だ。

「あの、あなたたちは、涼介とどういった関係ですか?」

戸惑い半分、不信感半分、といった様子で、

ドアの隙間から顔を出した加奈子が、つばさと斗哉の

両方を見る。つばさは、夢で見た女性の面影と少し

違う加奈子の容姿に目を見張りながら、口を開いた。

「こんなことを言っても、信じてもらえないかもしれないんで

すけど、私、その……すごく霊感が強くて、それで……

涼介さんの幽霊からあなたのことを聞いたんです」
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