彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode2 おかしな三角関係

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「ただいまぁ」

熱くなってしまった頬をパタパタと手で扇ぎながら階段を

上がるつばさの後ろから、お邪魔しまーす、と涼介の

声が聴こえる。考えてみれば、生身ではないけれど、

斗哉以外の男性を部屋に入れるのは初めてで、

つばさは部屋のドアを開ける時、少しばかり緊張した。

「はい、どうぞ」

ドアを開けてぱちりと部屋の明かりを付ける。

すると一歩、部屋に足を踏み込んだ涼介は、すぐさま、

予想を裏切らない反応をしてくれた。

「うわっ、これが女子部屋!?」

仰け反って、つばさを振り返る。ついこの間、梨花を

部屋に入れた時も、同じようなことを言われたな……と

思い出しながら、どか、と部屋の真ん中に荷物を置くと、

つばさは「適当に休んでて」と声をかけた。涼介は

興味津々な様子で、部屋の中を見回している。そして、

本棚から1冊の少年漫画を取り出して、パラパラめくった。

「あ、この漫画懐かしー。まだ、完結してなかったんだ」

嬉しそうに目を輝かせて、その場で立ち読みを始める。

その様子は、涼介が見えない普通の人にしてみれば、

立派なポルターガイストという心霊現象だ。つばさは、

微妙な気持ちでボストンバックの中身を取り出し始めた。

その時だった。開け放たれたドアの方から、声がした。


「ちょっと、あんた。何か連れて帰ってきた?」

声のする方を振り返れば、姉の月子が目を丸くして、

ふわふわと宙に浮く漫画を指差している。この光景を見て、

キャーとも、ヒーとも、悲鳴を上げない姉はさすがだ。

霊感こそないが、つばさの霊能力の影響で、月子は

心霊現象に対して、耐性がついているのだ。

信じられない現象も、度々目撃すると人間慣れてしまう。

つばさの家族は、皆そうだった。

「ごめん。ちょっと今日だけ……」

へへっ、と笑いながら顔の前で手を合わせた。指を刺されて

いる涼介は、月子を見るなり、「綺麗なねーちゃんだなぁ」

と呟いたけれど、それはわざわざ口にしない。

「しょうがないわね、あんたは。何しに修学旅行行ったのよ。

ちゃんと楽しめたの?」

「うーん、あんまり」

この三日間の苦労を見透かされて、つばさは肩を竦める。

月子は、まだ、空中でパラパラとめくれている漫画を見て

ため息をつくと、腰に手をあてた。

「夕食出来てるから、すぐ下りてらっしゃい。あ、洗濯物

沢山あるんでしょう?夜のうちに一回洗っちゃうから、

早く出しなさい」

テキパキと、散乱している洗濯物を袋に入れて月子が脇に

抱える。そうして、部屋を出る前に、振り返って言った。

「あんたの部屋に泊めるのは構わないけど、家の中を

うろつかないように、ちゃんと言っといてよ」

「はーい」

ちら、と涼介に目配せして返事をすると、つばさは

お土産に買ってきた温泉まんじゅうを取り出して、

月子の背中に続いた。




「時刻表通りなら、あと3分だな」

バスの時刻表と腕時計とを確認して、斗哉が言った。

休日の朝で、周囲に人影はない。つばさは大きな

欠伸をひとつして、バスが来る方向を見やった。

「本当に行くのか?」

と、今さら渋っている涼介から聞き出した加奈子の

住所は、紙に書き留めてみればかなりの遠方で……

つばさと斗哉は、昨夜のうちに経路を調べ、早くに家を出る

約束をしたのだ。昨夜も、よく眠れたとは言え、旅行の

疲れはまだ取れ切っていない。そもそも、突然押しかけて

相手が出かけていたらどうするのか?目的地まで2時間

以上の道のりが、徒労に終わらない保証もなかった。

「電車とバスを乗り継いで、そこから徒歩15分か。

これで彼女がいなかったら、とんだ無駄足だな」

斗哉が、ポケットに手を突っ込んで、肩を竦める。

その声を背中で聞いていたつばさは、遠目に見え始めた

バスを指差して、来たよ!と、斗哉を振り返った。

つばさは、斗哉と涼介とバスに乗り込むと、最後尾の

長椅子に座った。ふたりの間に挟まれる形で座り、

何だか落ち着かない心地で窓の外を見やる。
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