彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode2 おかしな三角関係

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翌日。

朝食を終えて、食器を配膳車に片付けていると、

隣りに真理がやってきた。

「ねぇ。本当に、連れて帰って大丈夫なの?」

クラスメイトの中心にいる斗哉の姿を振り返って、

真理が声を潜める。

「うん。斗哉にも、もう話したし。大丈夫」

言葉少なに答えると、つばさは窓の側に立っている

涼介を見た。朝の陽に透けて消えてしまいそうな

彼の表情からは、昨夜の熱をまったく感じない。

あのあと、部屋に戻ったつばさは、涼介を一緒に連れて

帰ることを真理に話したのだ。もちろん、非常階段で

起こった出来事には、ひと言も触れずに……ただ、

涼介をこのまま置いていくことはできないと、そう伝えた

のだった。当の涼介は、その言葉通り、つばさに

指一本触れることなく、一晩、見守ってくれた。

そのお陰で、つばさはゆっくり爆睡できたし、

今日は朝から頭もすっきり、快調だ。

「それにしても、よく黒沢が首を縦に振ったね。

どうやって、説得したのよ?」

部屋に続く廊下を歩きながら、真理はつばさの顔を

覗き込んだ。つばさは肩を竦める。

「まあ、大変だったけどね。結局、連れて帰っても、

すぐに加奈子さんのところに行けるわけじゃないし。

一晩はうちに涼介を泊めることになるからさ。

そのことで、ちょっと揉めたかな……」

つばさは、歩きながら頭の後ろで両手を組んた。

今日、これから宿舎を出発して帰路につく予定だが、

自宅に着くころには夜になってしまう。だから、どうしても

涼介を加奈子のところに連れて行くのは、明日に

なってしまうのだ。幸い、明日は土曜日で、予定もない。

もう一晩、涼介と過ごすことに斗哉は猛反対したけど、

「大丈夫。指一本でも触れたら八つ裂きにするから」

と断言して、つばさは納得させたのだった。そしてもちろん、

明日は斗哉も一緒に行ってくれる。結局、なんだかんだ

言っても、斗哉は面倒見がいいのだ。決して、つばさを

一人にすることはない。


かくして、つばさたちと帰路につくことになった涼介は、

バスの一番後ろの席にどっか、と座っていた。

自分たちのバスに幽霊が乗り込んでいることなど、知る由も

ない生徒たちは、旅の疲れが出たのか、ほとんどが静かに

寝息を立てている。隣に座る真理も、つばさの肩に頭を

預けて、瞼を閉じていた。つばさは、窓の外を流れる風景に

目をやりながら、昨夜、気付いたばかりの、自分の気持ちを

持て余していた……



「本当に、大丈夫なのか?」

ようやく辿り着いた自宅前で、斗哉は尚も心配そうに

顔を顰めて、つばさに訊いた。

「じゃあさ、斗哉の部屋に連れて帰る?」

半ば、冗談で言ったセリフに、斗哉は真顔で頷く。

「俺は別に構わないよ。いても、見えないから、

いないのと同じだけどな」

斗哉の言葉が癇に障ったのか、はたまた、

ライバル心からか?涼介が思い切り、あかんべーを

している。つばさは、その様子をゲンナリして見ながら、

顔の前で手を振った。

「涼介も嫌がってるし、このまま連れて帰るよ。

何かあったら電話するし、ベランダ開ければすぐ

斗哉と話せるんだし、本当に大丈夫」

このままでは、斗哉までついてくる来ると言い出しそう

な雰囲気だったので、つばさは必死に説得した。

斗哉がため息をつく。これ以上言ってもしょうがないと

諦めたのか、つばさの頭にぽん、と手の平をのせると

顔を覗き込んだ。

「本当に、何かあったらすぐ俺を呼べよ。

澄子さんのお守りも、側に置いて寝るんだぞ」

「う、うん。わかった。」

斗哉の言葉に二度三度頷くと、つばさは斗哉の手から

逃げるように顔を背け、じゃあ、と、ひと言だけ告げて

門扉の向こうへ入っていった。
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