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episode2 おかしな三角関係
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「どうして急にいなくなっちゃったの?心配するじゃん」
「いたよ。ずっと」
「えっ、どこに?」
「ずっと、後ろにいた。つばさにも、見えないようにしてただけ」
ぺろっ、と舌を出して涼介が笑う。その笑顔を見れば、
怒る気も失せてしまう。つばさは「なんだ。そっか」と笑って
空を見上げた。
「可愛かっただろ?俺の娘。美涼って言うんだ。
まだ、こんくらいの時は、俺のことも見えててさ。あの時は、
嬉しかったな……本当に」
手の平で子供の背丈を示しながら、涼介が父親の顔をする。
つばさは切なくて、ただ、頷くしかできなかった。
「でも、あっという間に大きくなって。もう、俺のことだって
全然見えないのに、それでも、やっぱり離れがたくてさ……
一度、タイミング逃しちゃうと難しいんだよな、これが」
はは、と淋しそうに涼介が笑う。つばさは、じっと涼介の
横顔を見つめた。そうして、言った。
「でも涼介、加奈子さんの伝言、聞いてたでしょう?
ちゃんと、天国で待っててほしい、って」
「………」
「いまが……その、タイミングなんじゃないかな?」
つばさは、涼介の顔を覗き込んだ。涼介はじっと、
一点を見つめて口を噤んでいる。そしてしばらくすると、
小さく頷いて、吹っ切れたように笑った。
「そうだな。つばさの言う通りだ。俺は、もしかしたら、
加奈子の口から“もう大丈夫だ”って聞けるのを、ずっと、
待ってたのかもしれない。二人を見守るつもりで側に
いたんだけど……いつの間にか、自分から離れられなく
なってて、本当は、このまま、永遠に、俺だけがこの世に
取り残されるんじゃないか、って、心細かったんだ……」
涼介の口から初めて聴く弱音のような言葉を、つばさは
黙って聞いていた。いま、涼介の言った事が本心なら、
やはり、今日、つばさがここに来たことは意味があるのだ。
残された者と、残して逝った者の間に立つことが出来た
のだから……
そんなことを思っていたつばさに、涼介が、にかっ、と
あの笑顔を向ける。つばさは、なんだか苦しくなった。
「ありがとな。つばさ」
「ううん……良かった。本当に」
別れの時が、迫っている。つばさは、そう、直感した。
本当はもっと涼介に伝えたい言葉がある筈なのに、こんな
時に限って、言葉が詰まって出てこない。
きっともう、この笑顔を見ることは、二度とない。
そう思ってしまえば、心の中は散らかって、散らかって、
どうにも言葉が見つからなかった。
「じゃあ、俺。行くわ」
そう言って、涼介は立ち上がった。振り返って、目を細める。
座ったまま、涼介を見上げるつばさの目には、薄っすらと
涙が滲んでいる。つばさは、その涙が零れてしまわないように、
きつく唇を噛んだ。
「じゃあね。涼介」
震えそうになる声でそう言うと、涼介がふわりと笑った。
その笑顔が、すっ、と風に溶けてしまったのは、一瞬だった。
つばさは、呆気にとられたように、涼介のいなくなった空間を
見つめていた。
「いたよ。ずっと」
「えっ、どこに?」
「ずっと、後ろにいた。つばさにも、見えないようにしてただけ」
ぺろっ、と舌を出して涼介が笑う。その笑顔を見れば、
怒る気も失せてしまう。つばさは「なんだ。そっか」と笑って
空を見上げた。
「可愛かっただろ?俺の娘。美涼って言うんだ。
まだ、こんくらいの時は、俺のことも見えててさ。あの時は、
嬉しかったな……本当に」
手の平で子供の背丈を示しながら、涼介が父親の顔をする。
つばさは切なくて、ただ、頷くしかできなかった。
「でも、あっという間に大きくなって。もう、俺のことだって
全然見えないのに、それでも、やっぱり離れがたくてさ……
一度、タイミング逃しちゃうと難しいんだよな、これが」
はは、と淋しそうに涼介が笑う。つばさは、じっと涼介の
横顔を見つめた。そうして、言った。
「でも涼介、加奈子さんの伝言、聞いてたでしょう?
ちゃんと、天国で待っててほしい、って」
「………」
「いまが……その、タイミングなんじゃないかな?」
つばさは、涼介の顔を覗き込んだ。涼介はじっと、
一点を見つめて口を噤んでいる。そしてしばらくすると、
小さく頷いて、吹っ切れたように笑った。
「そうだな。つばさの言う通りだ。俺は、もしかしたら、
加奈子の口から“もう大丈夫だ”って聞けるのを、ずっと、
待ってたのかもしれない。二人を見守るつもりで側に
いたんだけど……いつの間にか、自分から離れられなく
なってて、本当は、このまま、永遠に、俺だけがこの世に
取り残されるんじゃないか、って、心細かったんだ……」
涼介の口から初めて聴く弱音のような言葉を、つばさは
黙って聞いていた。いま、涼介の言った事が本心なら、
やはり、今日、つばさがここに来たことは意味があるのだ。
残された者と、残して逝った者の間に立つことが出来た
のだから……
そんなことを思っていたつばさに、涼介が、にかっ、と
あの笑顔を向ける。つばさは、なんだか苦しくなった。
「ありがとな。つばさ」
「ううん……良かった。本当に」
別れの時が、迫っている。つばさは、そう、直感した。
本当はもっと涼介に伝えたい言葉がある筈なのに、こんな
時に限って、言葉が詰まって出てこない。
きっともう、この笑顔を見ることは、二度とない。
そう思ってしまえば、心の中は散らかって、散らかって、
どうにも言葉が見つからなかった。
「じゃあ、俺。行くわ」
そう言って、涼介は立ち上がった。振り返って、目を細める。
座ったまま、涼介を見上げるつばさの目には、薄っすらと
涙が滲んでいる。つばさは、その涙が零れてしまわないように、
きつく唇を噛んだ。
「じゃあね。涼介」
震えそうになる声でそう言うと、涼介がふわりと笑った。
その笑顔が、すっ、と風に溶けてしまったのは、一瞬だった。
つばさは、呆気にとられたように、涼介のいなくなった空間を
見つめていた。
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