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episode3 転入生 神崎 嵐
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「これ……」
つばさは、木の札に記してある文字をなぞって、嵐を見上げた。
「ああ、梵字だよ。うちの宗派は、その字を使うんだ。
位牌とかにも使われてるけど、その文字自体に霊力が
宿ってるから、その場凌ぎのお守りくらいにはなる」
自信たっぷりにそう言った嵐の顔を見て、つばさは、
そうなんだ、と頷いた。
「でも、本当にもらっちゃっていいの?
私は助かるけど、神崎君のがなくなっちゃうよ?」
つばさは、ちら、と、まだその場所で蠢いている黒い人影に
目をやると、嵐の顔を覗き込んだ。嵐が、くすりと笑う。
「俺はぜんぜん構わないよ。それくらいいくらでも作れるし。
ってか、神崎君はやめない?嵐でいいよ。俺たち仲間なんだし」
「……仲間?」
初めて言われたその言葉に、つばさは思わず目を丸くした。
嵐が黒曜石のような瞳を細め、頷く。自分にしか見えないものの
せいで、子供の頃から孤独を感じることが多かったつばさにとって、
仲間という言葉は信じられないほど新鮮で、心強かった。
つばさは、嵐がくれた札を胸に握りしめると、満面の笑みで言った。
「じゃあ、私のことは、つばさって呼んで。仲のいい友達は、
皆そう呼んでくれてるんだ」
「つばさ、か。わかった。じゃあ、さっそくだけど、つばさ、
購買に用があるんだろ?俺がついてってやるから、早く行こう」
「えっ?でも、あ、嵐はもう買うものないのに……」
つばさは、嵐が手に持っているビニール袋を見て、躊躇った。
「別に、それは構わないよ。教室に戻るには、アレの横を通らなきゃ
ならないし、つばさ一人じゃ心配だし、購買はすぐそこだから」
そう言いながら、ポケットに手を突っ込んで嵐が踵を返す。
つばさは、どんどん先に行ってしまう背中に小走りで追いつくと、
「ありがとね、嵐」
と、小声で言った。
パチリ、と灯りをつけて部屋を見渡す。相変わらず、綺麗に
整頓されたその部屋に、斗哉の姿はない。つばさは、
持ってきた宿題をテーブルの上に置くと、その袋を抱きかかえる
ようにして、テーブルに突っ伏した。最近、斗哉の帰りはいつも
にも増して、遅い。こうして、帰りを待つ時間が少しずつ長くなって、
つばさは、その時間がとても寂しかった。
「仕方ないよねぇ……」
誰もいない部屋で、つばさは一人ボヤいた。小学校の頃から、
斗哉は学校運営の一役を担うのが好きだった。その理由は、
生徒皆の意見を代弁できる立場にいたいという、いかにも
優等生らしい理由と、内申書は悪いよりも良い方がいいという、
これまた斗哉らしい合理的な理由だ。『検事になる』という
壮大な夢を持っている斗哉にとっては、学生生活の1分1秒が
貴重な時間なんだろうけど……ずっと隣にいた存在が、どんどん
一人で先に行って置いて行かれてしまうようで、つばさは
寂しかった。自然と重たくなる、瞼を閉じる。ブレザーの内ポケット
に入れてある護符が、硬い感触をつばさに伝えた。
『嵐でいいよ。俺たち仲間なんだし』
そう言って笑った、嵐の顔を思い出す。
つばさは、木の札に記してある文字をなぞって、嵐を見上げた。
「ああ、梵字だよ。うちの宗派は、その字を使うんだ。
位牌とかにも使われてるけど、その文字自体に霊力が
宿ってるから、その場凌ぎのお守りくらいにはなる」
自信たっぷりにそう言った嵐の顔を見て、つばさは、
そうなんだ、と頷いた。
「でも、本当にもらっちゃっていいの?
私は助かるけど、神崎君のがなくなっちゃうよ?」
つばさは、ちら、と、まだその場所で蠢いている黒い人影に
目をやると、嵐の顔を覗き込んだ。嵐が、くすりと笑う。
「俺はぜんぜん構わないよ。それくらいいくらでも作れるし。
ってか、神崎君はやめない?嵐でいいよ。俺たち仲間なんだし」
「……仲間?」
初めて言われたその言葉に、つばさは思わず目を丸くした。
嵐が黒曜石のような瞳を細め、頷く。自分にしか見えないものの
せいで、子供の頃から孤独を感じることが多かったつばさにとって、
仲間という言葉は信じられないほど新鮮で、心強かった。
つばさは、嵐がくれた札を胸に握りしめると、満面の笑みで言った。
「じゃあ、私のことは、つばさって呼んで。仲のいい友達は、
皆そう呼んでくれてるんだ」
「つばさ、か。わかった。じゃあ、さっそくだけど、つばさ、
購買に用があるんだろ?俺がついてってやるから、早く行こう」
「えっ?でも、あ、嵐はもう買うものないのに……」
つばさは、嵐が手に持っているビニール袋を見て、躊躇った。
「別に、それは構わないよ。教室に戻るには、アレの横を通らなきゃ
ならないし、つばさ一人じゃ心配だし、購買はすぐそこだから」
そう言いながら、ポケットに手を突っ込んで嵐が踵を返す。
つばさは、どんどん先に行ってしまう背中に小走りで追いつくと、
「ありがとね、嵐」
と、小声で言った。
パチリ、と灯りをつけて部屋を見渡す。相変わらず、綺麗に
整頓されたその部屋に、斗哉の姿はない。つばさは、
持ってきた宿題をテーブルの上に置くと、その袋を抱きかかえる
ようにして、テーブルに突っ伏した。最近、斗哉の帰りはいつも
にも増して、遅い。こうして、帰りを待つ時間が少しずつ長くなって、
つばさは、その時間がとても寂しかった。
「仕方ないよねぇ……」
誰もいない部屋で、つばさは一人ボヤいた。小学校の頃から、
斗哉は学校運営の一役を担うのが好きだった。その理由は、
生徒皆の意見を代弁できる立場にいたいという、いかにも
優等生らしい理由と、内申書は悪いよりも良い方がいいという、
これまた斗哉らしい合理的な理由だ。『検事になる』という
壮大な夢を持っている斗哉にとっては、学生生活の1分1秒が
貴重な時間なんだろうけど……ずっと隣にいた存在が、どんどん
一人で先に行って置いて行かれてしまうようで、つばさは
寂しかった。自然と重たくなる、瞼を閉じる。ブレザーの内ポケット
に入れてある護符が、硬い感触をつばさに伝えた。
『嵐でいいよ。俺たち仲間なんだし』
そう言って笑った、嵐の顔を思い出す。
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