彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode3 転入生  神崎 嵐

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霊能力者で、自分と同じものが見えて、それでいて、その苦労を

感じさせないあの余裕は、つばさにとって、眩しかった。同じように

霊能力者の血筋でありながら、つばさが出来ることは、ほんの

少しだ。きっと、嵐はその霊力をコントロールするために、色々な

勉強をしたんだろうけど……



ぐるぐる、昼間の出来事を思い起こしながら、つばさは重くなる

瞼を閉じた。そして、その数秒後には、意識を闇に預けていた。


チリン…チリ…チリン


どこからか、鈴の音が聴こえる。

泥のように重く沈んだ意識の中で、つばさは耳を澄ました。

閉じているはずの瞼の中に、真っ青な空を切り取ったような

四角い窓が浮かんでいる。その窓の外を、ベッドに腰掛けた

髪の長い女の子が眺めていた。

「これ、お土産。早く元気になってね」

男の子の声がした。どこかで聞いたような、澄んだ声だ。

つばさは、ベッドの脇に立っている男の子の後ろ姿を見た。

年のころは、小学校4・5年くらいか?

女の子がこちらを向いたが、なぜだか顔はぼやけて、

見えない。けれど、その場の空気から、二人が穏やかに

笑っているのはわかった。

「ありがとう……くん。大事にするね」


チリ…チリン……


手に取った鈴を鳴らしながら、女の子が嬉しそうに言った。

「……さんも、来年は一緒に遠足行けるといいね。

お薬ちゃんと飲んで、ご飯いっぱい食べて、

元気になろうね」

まだ、幼さの残る声で、男の子が優しく言葉をかける。

うん、と頷いた女の子の髪を、窓から流れる風が揺らした。


-----これは夢だ。


誰かの遠い記憶を、自分は夢に見ている。


-----誰の夢だろう?


そう、考えていたつばさの肩を、不意に大きな手が揺すった。



(…ばさ、……つばさ…)

ん?この声は……知ってる。

聴き慣れた声に肩を揺すられ、次第に意識が白んでゆく。

つばさは、硬く閉じていた瞼を、ゆっくり開けた。

眩しい……

明るい光が目に飛び込んできて、顔を顰めたつばさの耳に、

今度ははっきりと斗哉の声が聴こえた。

「宿題、やらなくていいのか?つばさ」

その一言で、つばさは、ぱっと顔を上げた。

「…やる。宿題。やらなきゃ……」

ようやく焦点が合って、斗哉の顔が視界に映る。ここは斗哉の

部屋で、どうやら自分は転寝うたたねをしていたようだ。

枕代わりに抱きかかえていた袋には、よだれまで垂れている。

つばさは、口元をぐい、と手の甲で拭うと、おかえり、と斗哉に言った。


「おかえり、って言われてもな。

俺が帰ってきてから、もう2時間は経ってるけど」

斗哉が部屋の時計を指差して、肩を竦める。へっ?と目を丸くして

つばさが時計を見れば、時刻は10時をとうに過ぎていて……

ぐぅ~きゅるるぅ……と、つばさの腹時計が時の経過を告げた。

「嘘っ!そんなに寝ちゃってたんだ。

ってゆーか、帰ってきてるなら起こしてよ」

もう、とブツブツ言いながら、頬を膨らませながら、斗哉が肩にかけて

くれたらしいコートを畳む。ずっと、斗哉に寝顔を見られていたのかと

思うと、何となく気恥ずかしかった。その顔を横目で見ながら、斗哉は

すでに正答記入済のノートをつばさの前に広げる。

「だってお前、気持ち良さそうに寝てるし、どうせ起こしたところで、

俺が宿題終わるまで漫画読んで答え写すだけだと思ったから、

寝てる間に宿題終わらせてやろうと思ったんだけど、これ……

要らないの?」

ひらひら、とつばさの前でノートをひらつかせて斗哉が微笑を向ける。

つばさは、斗哉のもっとも過ぎる言い分にぐうの音も出なかった。

「要ります。いつもありがとうございます」

賞状を受け取るような仕草で、つばさが斗哉からノートを受け取る。

その様子に、一度笑みを深めると、斗哉は立ち上がってデスクの

前に立った。


「あ、そう言えばね……」

こちらに背中を向けて、パラパラと机の上の参考書をめくる斗哉に

話しかける。分厚いその参考書は、斗哉が自習用に買った数Ⅲだ。
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