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episode5 朔風に消える
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つばさは、はっとした。実は、彼女がこの部屋に入ってきた時から、甘い匂いが
すると思っていたのだ。フルーツのような、甘い香りがふわりとつばさの方まで
漂ってくる。斗哉も感じているだろうか?そう思ってつばさは斗哉に目をやった。
が、斗哉は小さく首を振る。つまり、この匂いはわかる人間にしか、わからない
ということだ。
「あの、匂いってもしかして……このフルーツみたいな、甘い香りですか?」
つばさは、人差し指で周囲を指差して加賀見に訊ねた。加賀見は大きく目を
見開いて頷く。
「あ、突然すみません。実は私も、霊感が強くて。と言っても……嵐みたいに
霊能力者として活躍してるわけじゃないんですけど……」
一同の視線が集中して、つばさは思わず顔の前でひらひらと手を振った。
隣で嵐が微笑んだのがわかる。
「おそらく、この香りは彼女が生前、好んでつけていた香水か何かですよね。
他に、何か気にかかっていることはありますか?」
嵐はテーブルの上で手を組んで、加賀見の目を覗いた。
「あ、はい。他にも、彼女の写真がいきなり倒れるとか、誰もいないはずの
キッチンから音がするとか。とにかく、七海の気配をそこかしこに感じてて……
でも、そういうのが恐ろしいわけじゃないんです。僕は、七海が成仏できなくて、
僕に何かを伝えようとしてるんじゃないかと。そう思うと……」
加賀見は声を震わせながら、唇を噛んだ。泪こそ流していないが、眼鏡の向こう
の視界は、きっと歪んでいるのだろう。その彼の肩に手を置いて、七海が表情を
曇らせている。彼を泣かせているのは自分なのだと、責めているのかもしれない。
嵐とつばさは顔を見合わせた。彼に、加賀見に彼女の存在を話すタイミングは、
今だ。嵐は徐に口を開いた。
「加賀見さん。いま、あなたは右肩に温もりを感じていませんか?」
はっとした顔をして加賀見が顔を上げる。自分の右肩に手を伸ばして、頷いた。
「感じるような……気がします」
黒住刑事が眉間にシワを寄せて、加賀見の右肩に目をやる。門田刑事は静かに
この場のやり取りを見守っていた。嵐は加賀見の答えに笑みを浮かべる。
「さっき、この部屋にあなたが入ってきた時から、彼女はずっとあなたの側に
いるんです。いまも、あなたの右肩に手をのせてますよ」
嵐がそう言った瞬間、加賀見の目に泪があふれた。
「ほ、本当ですか?七海がっ…僕のそばに……」
眼鏡を外して、ぐい、と手の甲で泪を拭いながら、それでも、肩にのせた手は
彼女の手に重ねるように、離さない。つばさは、その加賀見に、確かめるように
言った。
「七海さん、可愛らしい人ですね。緩めのウェーブヘアも、水色のカットソーも、
清楚な感じで似合ってるっていうか」
泪をあふれさせたままで、加賀見が目を見開く。隣に座る黒住刑事が、手元の
捜査資料をパラパラとめくり、そうして、信じられないと言った顔で頷いた。
「事件当日、彼女が身に付けていた服が水色です」
その隣から、門田刑事が資料を覗く。そうして、にっこりとつばさに笑みを向けた。
どうやら、この部屋にいる全員が、彼女の存在を認めたようだ。嵐は小さく息を
吐くと、加賀見の背後に目を向けた。もちろん、傍から見れば、そこには
誰もいない。
「彼に、何か伝えたいことがあるんですか?」
嵐の問いに七海が頷いた。そうして、少し目を伏せると思い詰めたような
顔で言った。
「犯人を、捕まえてほしいの。私のような犠牲者が増えないように。あいつは、
犯人はきっと同じことを繰り返すわ。だから、ちゃんと犯人が捕まるまでは、絶対、
天国なんかいけないのよ」
すると思っていたのだ。フルーツのような、甘い香りがふわりとつばさの方まで
漂ってくる。斗哉も感じているだろうか?そう思ってつばさは斗哉に目をやった。
が、斗哉は小さく首を振る。つまり、この匂いはわかる人間にしか、わからない
ということだ。
「あの、匂いってもしかして……このフルーツみたいな、甘い香りですか?」
つばさは、人差し指で周囲を指差して加賀見に訊ねた。加賀見は大きく目を
見開いて頷く。
「あ、突然すみません。実は私も、霊感が強くて。と言っても……嵐みたいに
霊能力者として活躍してるわけじゃないんですけど……」
一同の視線が集中して、つばさは思わず顔の前でひらひらと手を振った。
隣で嵐が微笑んだのがわかる。
「おそらく、この香りは彼女が生前、好んでつけていた香水か何かですよね。
他に、何か気にかかっていることはありますか?」
嵐はテーブルの上で手を組んで、加賀見の目を覗いた。
「あ、はい。他にも、彼女の写真がいきなり倒れるとか、誰もいないはずの
キッチンから音がするとか。とにかく、七海の気配をそこかしこに感じてて……
でも、そういうのが恐ろしいわけじゃないんです。僕は、七海が成仏できなくて、
僕に何かを伝えようとしてるんじゃないかと。そう思うと……」
加賀見は声を震わせながら、唇を噛んだ。泪こそ流していないが、眼鏡の向こう
の視界は、きっと歪んでいるのだろう。その彼の肩に手を置いて、七海が表情を
曇らせている。彼を泣かせているのは自分なのだと、責めているのかもしれない。
嵐とつばさは顔を見合わせた。彼に、加賀見に彼女の存在を話すタイミングは、
今だ。嵐は徐に口を開いた。
「加賀見さん。いま、あなたは右肩に温もりを感じていませんか?」
はっとした顔をして加賀見が顔を上げる。自分の右肩に手を伸ばして、頷いた。
「感じるような……気がします」
黒住刑事が眉間にシワを寄せて、加賀見の右肩に目をやる。門田刑事は静かに
この場のやり取りを見守っていた。嵐は加賀見の答えに笑みを浮かべる。
「さっき、この部屋にあなたが入ってきた時から、彼女はずっとあなたの側に
いるんです。いまも、あなたの右肩に手をのせてますよ」
嵐がそう言った瞬間、加賀見の目に泪があふれた。
「ほ、本当ですか?七海がっ…僕のそばに……」
眼鏡を外して、ぐい、と手の甲で泪を拭いながら、それでも、肩にのせた手は
彼女の手に重ねるように、離さない。つばさは、その加賀見に、確かめるように
言った。
「七海さん、可愛らしい人ですね。緩めのウェーブヘアも、水色のカットソーも、
清楚な感じで似合ってるっていうか」
泪をあふれさせたままで、加賀見が目を見開く。隣に座る黒住刑事が、手元の
捜査資料をパラパラとめくり、そうして、信じられないと言った顔で頷いた。
「事件当日、彼女が身に付けていた服が水色です」
その隣から、門田刑事が資料を覗く。そうして、にっこりとつばさに笑みを向けた。
どうやら、この部屋にいる全員が、彼女の存在を認めたようだ。嵐は小さく息を
吐くと、加賀見の背後に目を向けた。もちろん、傍から見れば、そこには
誰もいない。
「彼に、何か伝えたいことがあるんですか?」
嵐の問いに七海が頷いた。そうして、少し目を伏せると思い詰めたような
顔で言った。
「犯人を、捕まえてほしいの。私のような犠牲者が増えないように。あいつは、
犯人はきっと同じことを繰り返すわ。だから、ちゃんと犯人が捕まるまでは、絶対、
天国なんかいけないのよ」
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