彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode5 朔風に消える

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聴こえてくる声は、鈴が鳴るような可愛らしい声なのに、その言葉に込められる

想いが、胸を締めつける。彼女は、この想いを彼に伝えたくて、自分が成仏でき

ずに側にいることを知らせていたのだろう。嵐は、彼女が口にしたことを、そのまま

伝えた。その話を聞いて、ふむ、と鼻を鳴らしたのは黒住刑事だった。

「確かに、性犯罪は再犯率が高い。伊佐山さんを襲った犯人が初犯だとしても、

これから罪を重ねる確率は十分にあります」

つまり、彼女を成仏させるためにも、次の犠牲者を出さないためにも、犯人を

捕まえることが、最優先ということになる。嵐は、腕を組んで片手で顎をなぞると、

黒住刑事に訊いた。

「まずは、彼女から犯人の特徴を訊いてみます。目撃情報がないと言って

ましたが、上手くいけば犯人の似顔絵を作成できるかも知れないし」

「ぜひお願いします。すぐに、似顔絵を作成できる者を来させます」

そう言うと、黒住刑事は部屋の隅にある電話でやり取りを始めた。つばさは、

緊張からごくりと唾を呑む。いよいよ、本格的に捜査協力が始まるわけだ。

上手くいくだろうか?嵐が、さっそく七海に質問を始めた。もちろん、彼女の声は

つばさたちにしか聴こえないので、返ってきた答えは、どちらかが、反芻すること

になる。加賀見のそばを離れ、つばさと嵐の背後に立った七海を見上げる。




「何でもいいです。あなたが覚えていることを教えてもらえますか?」

嵐は落ち着いた様子で彼女に語りかけた。七海が頷く。

「真っ暗だったから、あまり見えなかったんだけど……犯人は黒いマスクで

顔を隠してた。目は細くて、ちょっとつり上がってて。あと、前髪がすごく長くて、

もさっとした感じだった気がする」

辛い記憶にもかかわらず、七海は気丈に思い出して答えてくれた。けれど、

まっ暗闇の中で襲われただけあって、得られる情報は少なそうだ。つばさは、

思わず身を乗り出した。

「他に、何か印象に残ってることとかないですか?服装とか、躰つきとか」

七海が、うーん、と額に手をあてる。つばさたちのやり取りを、黒住刑事がしきり

に書き留めている。似顔絵作成の担当者も、スケッチブックに鉛筆を走らせていた。

「服装は、黒いTシャツを着てたと思うんだけど、もしかしたら、紺かもしれ

ないし。躰つきは………華奢だった気がするんだけど、それ以上は……」

七海は、もう答えられないといった顔で首を振った。似顔絵担当の人が渋い顔を

しながら、それでも何とか画を完成させて、こちらに向ける。七海は、その画を

指差して頷いた。

「そう、こんな感じ!マスクで顔が隠れてたけど、こういう、陰気な雰囲気だった」

七海がそう言っていることを伝えると、黒住刑事と門田刑事は顔を見合わせて

頷いた。犯人像が見えなかった中で、ようやく掴めた手がかりだ。

「この似顔絵をもとに、再度聞き込み捜査をかけてみましょう。他にも、何か得ら

れる情報はないですか?犯人の身長とか年齢とか。霊視で何とかなりませんか?」

黒住刑事が嵐の顔を覗く。加賀見も祈るような眼差しを嵐に向けていた。

「事件現場に行けば、おそらく。故人の念が強い場所の方が、いろいろ見え

やすいんです。七海さんの思念を、脳が直接五感で捉えてくれるというか……」

嵐の話を聞いて、つばさは、へぇ、と目を見開いた。自分は霊視という能力を

体感したことはないが、嵐の言うように、故人の念が強い場所なら……自分にも

何か見えるだろうか?

「そういうことでしたら、すぐにでも現場に向かいましょう。いま、車を用意

します。そのまま、ここで待機しててください」
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