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episode5 朔風に消える
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こんなことになるなんて………
やりきれない気持ちで、加賀見の背中を見送ったつばさの耳に、突然、
背後から「嘘つき」という声が聴こえて振り返った。そうして、言葉を失くす。
待っていたのは凍てつくような冷たい眼差しで、思わず後退りしたつばさを
庇うように、嵐が間に立つ。つばさの様子に気付いた斗哉も、歩み寄って
つばさの肩を抱いた。真っ赤な瞳が、つばさを睨んでいる。冷たい北風に、
彼女の姿が揺れている。
「嘘つき。あんたの嘘で、あの人が救われたと思ってるなら、大間違いよ」
嵐の背後に見えるつばさを睨みながら、七海が一歩、また一歩と近づく。
血の流れる手で、嵐が数珠を握りしめた。つばさに何かするつもりなら、
強制的に除霊するつもりなのだろう。七海は歩みを止めて、笑みを浮か
べた。すべてに失望したような、冷めた笑みだった。
「そんなことしなくても、消えてあげる。二度も殺されるなんて………
真っ平だもの」
七海がそう言った瞬間、ざあ、と風が舞い上がった。その風に吸い込まれる
ように、すっと七海の姿が消える。まさか、成仏してくれたのだろうか?
つばさは、七海が消えた空間から目を逸らすと、耳を塞いだ。
-----嘘つき-----
そう言った七海の声が、耳に残ってなかなか消えてはくれなかった。
「犯人は古谷 國弘19歳。本人は黙秘していますが、
心療内科のカルテから名前も住所もわかりました。あなた方が霊視した通り、
店の防犯カメラにもリストバンドをしている古谷の顔が映っています。DNA
鑑定の結果も一致するでしょうし、動機や物的証拠もすぐに揃うでしょう」
淡々と事件の報告をする黒住刑事に、つばさは浮かない顔で頷いた。
あれからすぐに、つばさたちは、門田刑事に連れられ西警察署に戻ることと
なった。嵐の怪我の手当ても必要だったし、こういう事になってしまった経緯を
改めて調書に起こさなければならなかったのだ。捜査協力を受けたその日に、
スピード解決という、にわかには信じ難い結末だけなら良かったのだが……
被害者遺族である加賀見が、犯罪者になってしまったという苦い現実を前に、
門田刑事も黒住刑事も渋い顔をせざるおえない。
警察の取り調べに対し、加賀見は素直に殺意を自供している。
七海の四十九日を境に、犯人を見つけたら殺すつもりで折り畳みナイフを
所持していたらしい。加賀見にかけられた容疑は、殺人未遂に、嵐に対する
傷害罪。そして銃刀法違反。最悪の事態は避けられたとはいえ、彼の今後の
人生を想うと胸が苦しい。
「私がこの似顔絵を忘れたりしなければ、加賀見が行動を起こすこともなかった
でしょうね。うっかりしてしまって、申し訳ない。それにしても、黒沢さんの推理が
ぴたりと当たっていて驚きました。まさか、あなたも霊視が出来るんですか?」
あの似顔絵をテーブルに広げながら、黒住刑事が斗哉の顔を覗く。
斗哉は、まさか、と答えて苦笑いをした。
「ただの勘ですよ。想像というパズルがたまたま一致しただけです。
でも、そのせいで加賀見さんがこんなことになってしまったと思うと……」
斗哉は複雑な顔をして、白い包帯の巻き付いた嵐の手を見た。加賀見はもちろん、
嵐の怪我がこの程度で済んだのも幸いだった。もしかしたら、揉み合っている
途中で刺される、なんて事態も起きたかもしれない。
考えただけで、ぞっとする。
やりきれない気持ちで、加賀見の背中を見送ったつばさの耳に、突然、
背後から「嘘つき」という声が聴こえて振り返った。そうして、言葉を失くす。
待っていたのは凍てつくような冷たい眼差しで、思わず後退りしたつばさを
庇うように、嵐が間に立つ。つばさの様子に気付いた斗哉も、歩み寄って
つばさの肩を抱いた。真っ赤な瞳が、つばさを睨んでいる。冷たい北風に、
彼女の姿が揺れている。
「嘘つき。あんたの嘘で、あの人が救われたと思ってるなら、大間違いよ」
嵐の背後に見えるつばさを睨みながら、七海が一歩、また一歩と近づく。
血の流れる手で、嵐が数珠を握りしめた。つばさに何かするつもりなら、
強制的に除霊するつもりなのだろう。七海は歩みを止めて、笑みを浮か
べた。すべてに失望したような、冷めた笑みだった。
「そんなことしなくても、消えてあげる。二度も殺されるなんて………
真っ平だもの」
七海がそう言った瞬間、ざあ、と風が舞い上がった。その風に吸い込まれる
ように、すっと七海の姿が消える。まさか、成仏してくれたのだろうか?
つばさは、七海が消えた空間から目を逸らすと、耳を塞いだ。
-----嘘つき-----
そう言った七海の声が、耳に残ってなかなか消えてはくれなかった。
「犯人は古谷 國弘19歳。本人は黙秘していますが、
心療内科のカルテから名前も住所もわかりました。あなた方が霊視した通り、
店の防犯カメラにもリストバンドをしている古谷の顔が映っています。DNA
鑑定の結果も一致するでしょうし、動機や物的証拠もすぐに揃うでしょう」
淡々と事件の報告をする黒住刑事に、つばさは浮かない顔で頷いた。
あれからすぐに、つばさたちは、門田刑事に連れられ西警察署に戻ることと
なった。嵐の怪我の手当ても必要だったし、こういう事になってしまった経緯を
改めて調書に起こさなければならなかったのだ。捜査協力を受けたその日に、
スピード解決という、にわかには信じ難い結末だけなら良かったのだが……
被害者遺族である加賀見が、犯罪者になってしまったという苦い現実を前に、
門田刑事も黒住刑事も渋い顔をせざるおえない。
警察の取り調べに対し、加賀見は素直に殺意を自供している。
七海の四十九日を境に、犯人を見つけたら殺すつもりで折り畳みナイフを
所持していたらしい。加賀見にかけられた容疑は、殺人未遂に、嵐に対する
傷害罪。そして銃刀法違反。最悪の事態は避けられたとはいえ、彼の今後の
人生を想うと胸が苦しい。
「私がこの似顔絵を忘れたりしなければ、加賀見が行動を起こすこともなかった
でしょうね。うっかりしてしまって、申し訳ない。それにしても、黒沢さんの推理が
ぴたりと当たっていて驚きました。まさか、あなたも霊視が出来るんですか?」
あの似顔絵をテーブルに広げながら、黒住刑事が斗哉の顔を覗く。
斗哉は、まさか、と答えて苦笑いをした。
「ただの勘ですよ。想像というパズルがたまたま一致しただけです。
でも、そのせいで加賀見さんがこんなことになってしまったと思うと……」
斗哉は複雑な顔をして、白い包帯の巻き付いた嵐の手を見た。加賀見はもちろん、
嵐の怪我がこの程度で済んだのも幸いだった。もしかしたら、揉み合っている
途中で刺される、なんて事態も起きたかもしれない。
考えただけで、ぞっとする。
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