彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode5 朔風に消える

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「ごめん、真理。今日は、嵐と帰ろうかな、と思ってて……」

「……嵐と約束してるの?」

「ううん。別に、約束はしてないんだけど……」

ちら、ちら、と廊下の方を気にしながら、つばさは口ごもる。

嵐は隣のクラスだ。だから、嵐が昇降口に向かうには、つばさの

教室の前を通らなければならない。それで、さっきから嵐が廊下を

通るのを待っているのだけど……なぜか通らなかった。

別に、今日がダメなら明日でもいいのだけど。いや、教室を覗いて

みようか?視線を廊下に向けたままでそう考え込んでいると、

わかった、という真理の声が聴こえた。

「じゃあ、先帰るね。でも、何かあったらいつでも相談してよ」

「えっ……相談?」

「また、何かあったんでしょう?朝から浮かない顔してるから、

心配してたの。何もないんなら、いいんだけどさ」

そう言って、ふふっ、と真理が笑う。つばさは、真理の洞察力に

目を丸くしつつ、彼女につられて頬を緩めた。苦しかった胸が、

少しだけ軽くなる。

「ありがと。うん……色々あったから、今度またじっくり聞いてもらう」

へへっ、といつもの顔で笑うと、真理は満足そうに頷いて手を振った。

「じゃあ、また明日ね」

「うん。また明日」

つばさは、教室を出て行く真理の背中を見送ると、鞄から携帯を

取り出した。




「…………嵐?ごめん。まだ、学校にいるかな?と思って」

どきどきしながら嵐に電話をかけると、呼び出し音は数回で途切れた。

受話器の向こうから嵐の声が聴こえる。つばさは、緊張からピンと

背筋を伸ばした。

「いるよ。図書委員のカウンター当番で、ちょっと遅くなったんだ。

いま、教室向かってる。どうしたの?」

「あ、えっとね。一緒に帰りたいなぁ、と思って……待ってたんだ」

語尾を小さくしながらそう言うと、すぐに嵐の明るい声が聴こえてきた。

「わかった。もうすぐ着くから、教室で待ってて」

「うん」

つばさは電話を切ると、マフラーを首に巻き付けて隣の教室へ

向かった。






「図書室の本を選ぶのって、難しそうだね」

嵐と肩を並べて歩きながら校門を出ると、つばさはいつもと違う帰り道を

歩き始めた。帰りがけに本屋に寄るという嵐の都合に合わせて、

駅まで遠回りの道を進む。通学路として使っている生徒が少ないせいか、

人影は疎らだった。

「ブックハンティングって言うんだ。うちの学校では新しい試みなんだけど、

各委員が少しずつ予算を分け合って選ぶから、色んな目線で本が選ばれて

面白い。どの本を選ぶかっていうのも、自分が読んでみたいっていう基準で

構わないから、何も難しくないよ」

白い息を吐きながら、嵐が淡く微笑む。難しくない、と言っても普段、

漫画しか読まないつばさには到底できない役回りだ。つばさは感心した

ように頷いた。

「私は漫画しか読まないからさ。好きな本選んでいいって言われても、

困っちゃうよ」

「何読んでるの?漫画は」

「少年アクション。毎週、斗哉が読み終わったの借りてるの」

「ああ……黒沢のか」

何となく、そこで会話が途切れて暗い道を無言で歩く。何か機嫌を損ねる

ようなことを言ってしまったわけではないのに、嵐の横顔が素っ気なく

感じる。気のせいだろうか?つばさは、思い切って沈黙を破った。





「ねえ、嵐」

「ん?」

「……ニュース、見た?」

「ああ。見た」

短い返事をした嵐を見上げる。この話をしたくてつばさは嵐を待ってい

たのだ。もちろん、ニュースというのは強姦殺人犯の古谷國弘が捕まった、

という内容に他ならない。真面目な性格だった彼が、大学受験に失敗して

以降、引き篭もりになっていたという犯行の背景も含め、加賀見が復讐の

目的で犯人に重傷を負わせたことまで語られていた。当然ながら、未成年

という観点から古谷の実名は報道されていない。
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