彼にはみえない

橘 弥久莉

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episodeFinal 永遠のワンスモア

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「今はまだ、この指にしかめてやれないけど」

そう言って、斗哉はつばさの右手の薬指に指輪を嵌めた。

斗哉の体温を吸い取った指輪が、すっ、とつばさの指になじむ。

「斗哉……これ……」

信じられない思いで指輪を見つめているつばさに、斗哉は

淡い笑みを浮かべ、頷いた。

「結婚しよう。いつか、必ず。この指輪はその誓い。俺は、

どんなに離れてても、何年かかっても、必ずお前を捉まえる。

自分の夢を叶えて、必ずお前をにするから……」

そう言って、もう一つの指輪をつばさの手の平にのせる。

斗哉のぶんだ。つばさは、それを手に取って斗哉の薬指に

嵌めた。きらり、と光る指輪の柄は、2人のリングを重ねる

ことで繋がるようになっている。斗哉は、指輪をした右手を

夕陽にかざして、目を細めた。

「いいデザインだよな。クリスマスにお前のネックレスを買った

店で見つけたんだ。掘り込まれてるのは、ツタの枝だって。

これがあれば、離れていても寂しくないだろ?」

「…んっ」

声にならない声で頷いて、つばさも斗哉がそうするように、

夕陽に手をかざす。2人の指輪が同じ色に、染まる。

こんなにも夕陽が美しく見えた日を、つばさは一生忘れない

だろうと思う。忘れられるわけが、ないと思う。

「泣くなって」

ひっ、ひっ、と隣からしゃくり上げる声が聴こえだして、斗哉が

苦笑いした。つばさを向いて、抱きしめる。

会いたくて、会いたくて、仕方なかった斗哉の温もりに包まれれば、

もう、泪は止まらない。伝えなければならない言葉も、喉に詰まって

出てこない。それでも、つばさは必死に声を絞り出した。

「っく……とうっ……やぁ……あいっ…てる」

腕の中で、モールス信号のように何かを発するつばさに、

斗哉が耳を傾けた。

「ん?何、もう一度」

ぽんぽん、と背中を叩きながら、子供をあやすように、斗哉の声が

甘くなる。つばさは、一度息を吸いこんで、そうして、言葉と共に

吐き出した。

「あ、あいっ、してる!!」

ぽんぽん、と背中を叩いていた手が止まる。そのことに気付いて

腕の中から斗哉を見上げれば、今度は斗哉が泣きそうな顔をしていた。

もしかしたら、自分はいま、初めて口にしたのかもしれない。



-----「愛している」と。



そのことに思い至れば、目を潤ませている斗哉がいっそう、愛おしい。

「ごめん。今まで、言って……なかったね」

そう言って、もう一度、愛してるよ、と口にすれば、斗哉の睫毛が

伏せられて、息がかかる。そうして、柔らかな温もりが唇に重なった。

離れていた時間を埋めるように、まるで流れてしまいそうになる泪を

止めるように、深く、深く、斗哉の唇が重ねられる。幸せすぎて、

つばさは息が止まってしまいそうだった。

「……っはぁ」

ようやく、長い口付けから解放されてつばさは息をついた。濡れた

睫毛を照れたように拭いながら、そういえば、と斗哉が屋敷の奥へ

と目を向ける。斗哉の視線の先にあるのは……澄子の茶室だ。

「お前の修行はとっくに終わってる、って澄子さんが言ってたけど、

どうする?このまま、俺と一緒に帰る?」

「えっ、そうなの!?」

突然、思いも寄らないことを斗哉の口から聴かされたつばさは、

目を丸くした。自分はまだ、澄子から何も教わっていない筈なのに、

いったい、どういうことだろう?

けれど、つばさは斗哉の手の平に散らばっていた護符を思い出す。

自分が綴った文字には、確かに力が宿っていた。もしかしたら、

気付かぬうちに澄子から“何か”を教えられていたのかもしれない。



-----だとしても。



今はまだ、ここを離れるわけにはいかなかった。

焼け跡に取り残してきた親子の姿が、脳裏を過ぎる。自分はまだ、

嵐の隣にも、澄子の隣にも立つことは出来ない。
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