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第四章:心に触れる
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専務室のドアのところで、振り返る。いま、この瞬間が
終わってしまえば、今度はいつ笑って話せるかも、
わからない。周囲の目を気にして距離を置いている
のは自分の方なのに、専務はきっと、蛍里のその
態度に気付いているはずなのに、優しかった。
だから、離れがたくて蛍里は言葉を探した。
「どうしました?」
ドアノブを握りしめたまま振り返っている蛍里に、
専務が首を傾げる。早く何か言わなければ……
蛍里は頭の中で必死に言葉を探した。
「……あの」
「…………?」
「その……諦めなければ、どうにかなるんじゃ
ないかと、思います」
ポツリ、ポツリ、と蛍里がそう口にすると、専務は
驚いたように目を見開いた。何の事を言っている
のか、彼はわかるはずだ。これも、分を弁えない、
行き過ぎた言葉かもしれない。それでも、蛍里は
彼に伝えたかった。彼だから、伝えたかった。
「専務の置かれている立場を考えると……難しい
のかもしれませんけど、でも、難しいと思って
諦めてしまったら、どうにもならないって、いうか。
幸せになって欲しいな、って思うんです。わたし、
専務も、専務が想われるその方も……
幸せになって欲しいです」
余計なことを言うな、と、怒られるかもしれない。
簡単にそんなことが出来るなら、専務だって
きっと、苦しんではいないだろう。それでも、
彼の胸の内を知ってしまったから………
蛍里は、専務がこのまま幸せになれない結婚を
するのが、悲しかった。誰かが傷ついたり、
苦しんだりしたとしても、詩乃守人の綴る物語
のように、最後は2人がハッピーエンドを迎える
結末であって欲しい。そう願ってしまうのは、
独善的すぎるだろうか?
榊専務の返事はなかった。その事を不安に
思ってまた口を開きかけた蛍里に、彼は、少し
苦しそうな、泣いてしまいそうな笑みを向けた。
ぎゅっ、と胸を掴まれたように苦しくなる。
こんな顔をさせるために、言ったつもりはなかった。
「もう行きなさい。人が戻ってきます」
それだけ言うと、専務は蛍里から視線を逸らして
デスクに向かった。もう顔を上げない。蛍里は
唇を噛むと、失礼しますと頭を下げ、部屋を出た。
結局、昼ごはんに食堂で注文したタヌキうどんは、
ほとんど喉を通らなかった。それでも、不思議と
お腹が空くことはない。その理由は、昼間の専務
顔が頭にチラついて胸が苦しかったのと、どうにも
一人では処理しきれない仕事を抱え、お腹が空い
たと思う余裕がなかった、というのが原因で……
定時をとっくに過ぎた時刻になっても、蛍里の
お腹が鳴ることはなかった。
終わってしまえば、今度はいつ笑って話せるかも、
わからない。周囲の目を気にして距離を置いている
のは自分の方なのに、専務はきっと、蛍里のその
態度に気付いているはずなのに、優しかった。
だから、離れがたくて蛍里は言葉を探した。
「どうしました?」
ドアノブを握りしめたまま振り返っている蛍里に、
専務が首を傾げる。早く何か言わなければ……
蛍里は頭の中で必死に言葉を探した。
「……あの」
「…………?」
「その……諦めなければ、どうにかなるんじゃ
ないかと、思います」
ポツリ、ポツリ、と蛍里がそう口にすると、専務は
驚いたように目を見開いた。何の事を言っている
のか、彼はわかるはずだ。これも、分を弁えない、
行き過ぎた言葉かもしれない。それでも、蛍里は
彼に伝えたかった。彼だから、伝えたかった。
「専務の置かれている立場を考えると……難しい
のかもしれませんけど、でも、難しいと思って
諦めてしまったら、どうにもならないって、いうか。
幸せになって欲しいな、って思うんです。わたし、
専務も、専務が想われるその方も……
幸せになって欲しいです」
余計なことを言うな、と、怒られるかもしれない。
簡単にそんなことが出来るなら、専務だって
きっと、苦しんではいないだろう。それでも、
彼の胸の内を知ってしまったから………
蛍里は、専務がこのまま幸せになれない結婚を
するのが、悲しかった。誰かが傷ついたり、
苦しんだりしたとしても、詩乃守人の綴る物語
のように、最後は2人がハッピーエンドを迎える
結末であって欲しい。そう願ってしまうのは、
独善的すぎるだろうか?
榊専務の返事はなかった。その事を不安に
思ってまた口を開きかけた蛍里に、彼は、少し
苦しそうな、泣いてしまいそうな笑みを向けた。
ぎゅっ、と胸を掴まれたように苦しくなる。
こんな顔をさせるために、言ったつもりはなかった。
「もう行きなさい。人が戻ってきます」
それだけ言うと、専務は蛍里から視線を逸らして
デスクに向かった。もう顔を上げない。蛍里は
唇を噛むと、失礼しますと頭を下げ、部屋を出た。
結局、昼ごはんに食堂で注文したタヌキうどんは、
ほとんど喉を通らなかった。それでも、不思議と
お腹が空くことはない。その理由は、昼間の専務
顔が頭にチラついて胸が苦しかったのと、どうにも
一人では処理しきれない仕事を抱え、お腹が空い
たと思う余裕がなかった、というのが原因で……
定時をとっくに過ぎた時刻になっても、蛍里の
お腹が鳴ることはなかった。
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