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最終章:恋に焦がれて鳴く蝉よりも

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最後に滝田に会ったのはいつだったろうか?と、ぼんやり

記憶を辿っていた蛍里に、結子はサラダを食べていた手を止め、

唐突に言った。

「実はわたしさ………好きなんだよね、彼のこと」

「へっ?」

予想だにしない結子のそのひと言に、蛍里は思わず間抜けな

声を漏らしてしまう。結子はその反応に苦笑いを浮かべた。

「えっ、と。好きって……ですか???」

蛍里は、まさか、と心の中で思いながらも結子に訊いた。

「だからね……わたし、滝田くんのことが好きなの」

「!!!!」

突然すぎる結子の告白に、蛍里は驚きすぎて声も出なかった。

フォークを刺し損ねたプチトマトが、つるっと皿から飛び出して、

結子の方に転がって行ってしまう。いつかと同じことをやって

のけた蛍里に、可笑しそうに肩を竦めながら、結子はナプキン

でそれを拾った。

「こら。食べ物粗末にしない」

「すっ、すみません!」

涼しい顔をしてそう言った結子の顔を、蛍里はまじまじと見つめる。

結子が滝田を好きだといった。それはいったい、いつからだろうか。

どきどきと心臓が早鐘を打っている。蛍里は、何を口にすれば

いいかわからずに、フォークを置いて両手を膝にのせた。

「すみません。わたし鈍感で、全然気付かなくて……」

「それはそうよ。折原さんに気付かれないようにしてたんだもん」

してたんだもん、って………

蛍里は結子のライトな物言いに少々拍子抜けしながらも、

そのことを訊かずにはいられなかった。

「あの、いつからですか?」

「いつから。うーん、そうね。滝田くんが入社して来て、仕事ぶりが

注目されるようになったあたりかな。あ、この子、ガッツあるなって、

目で追うことが多くなって」

滝田が注目され始めたころ、と言えばかなり前だ。蛍里はその事

にショックを受け、項垂れた。

「すみません。何かわたし……いろいろダメでしたね」

「だから、そんなの気にしてないって。滝田くんが折原さんのこと

好きなのはすぐわかったし、気を使われるのが嫌であえて黙って

たんだから。それに、前に聞いたでしょう?気になる人いないのか、

って。あれ、探りだったの。折原さんは、専務が好きなのか、それと

も滝田くんに気があるのか。知りたかったんだよね」

「そっ、そうだったんですか?」

澄ました顔で言って、またサラダを食べだした結子に、蛍里は口を

パクパクしながら、声を上げた。結子が、ふふっ、と小首を傾げる。

艶やかな睫毛が、鮮やかな口紅が、なんだか今日はいっそう輝いて

見える。蛍里はもしかして、と思い結子に訊いた。
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