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第四章 円卓の影
ボツネタ ~ 竜竜相打
しおりを挟むボツネタ ~ 竜竜相打
ルイハスの街で部屋を借りた俺たちは、窓に黄色いハンカチを挟んでおいた。
これが、マーカスさんとの合図である。情報を集めているマーカスさんを待つあいだ、俺は部屋の掃除をしていた。
クリス嬢は食材の買い出し、エイヴはベッドにシーツをかけている。
その途中、窓の外を見たエイヴが不思議そうな顔をした。
「トト、なんで黄色のハンカチなの?」
「うん? ああ、有名かなって……」
「有名?」
俺の返答に、エイヴは首を捻るばかりだ。
まあ、元の世界でも幼かったようだし、映画ネタは知らなくても仕方ないか……。
「あら、どうかしました?」
帰ってきたクリス嬢は、まだ悩んでいるエイヴに声をかけた。
エイヴから黄色いハンカチのことを聞いたエイヴは、なにやら微妙な顔で俺を見た。
「トト? 黄色いハンカチって、なにか有名でした?」
「ええっと映画ネタなんですけど……もしかして、意外と知られてなかったりします?」
「ええ……さっぱり。もしかして、日本の映画ってことはありませんか?」
クリス嬢の問いかけに、俺は答える術を持っていなかった。
しまったな……朧気に映画ネタってことは覚えてたけど、それが邦画か洋画かってところまでは覚えてないや。
なんか……すいません。
ネタの不発で落ち込んでいると、部屋のドアがノックされた。
「はい――どちらさまでしょうか?」
クリス嬢が部屋のドアに向かうと、廊下から返事があった。
「ああ――マーカスです」
「あら、いらっしゃいませ」
クリス嬢が解錠したドアを開けると、手に袋を持ったマーカスさんが部屋に入ってきた。
食料の追加に――と、クリス嬢に紙袋を手渡した途端、部屋中に女の声怒声が響いた。
〝ちょっと――なんで、ティアマトなんかがいるのよっ!!〟
マーカスさんのポケットから、半透明の小さな影――馬に似た身体に女の身体、それに蛇に似た二つの頭部が伸びている――幻獣のヴォラが現れて、クリス嬢を睨み付けた。
いや、ヴォラが睨んでいるのはクリス嬢ではない。
怒声に反応して、クリス嬢のドレスの内側から、これまた半透明の小さな影――蛇に似た胴体に女の顔、四肢は人間の様に細長い――ティアマトが現れた。
ヴォラとティアマトは、額をぶつけ合うほどに顔を寄せた。
〝なんか、とは聞き捨てならないですわね。三つ巴のような身体のくせに〟
〝ああっ!? あんただって、似たようなもんでしょうが!! そんなことより、なんであんたが王の側にいるのよ。子どもたちと一緒にいればいいでしょ?〟
〝王のお役に立つためですわ。あなたこそ、なにをしゃしゃり出ているのかしら。なんの役にも立つわけでもないでしょう?〟
〝ああん――喧嘩売ってるわけ?〟
〝それは、あなたからでしょう〟
女同士の言い争いは、いつまで経っても終わりそうにない。ああ、もう……隠密行動しなきゃならんときに。どこに転生者や幻獣がいるか、わからんのになあ。
それにしてもガラン、モテモテだな……。
あ、羨ましがってる場合じゃないか。
一つ困るのが、こういう場面の仲裁に関しては、ガランが役に立たないということだ。
現に今も……。
〝トト――なにか言ったほうがいいのだろうか?〟
と、自信なさげに言ってくる始末である。
こんな感想を抱いている俺にしても、どう対処すべきかなんて、わからない。ただ、このままでは埒が明かないどころか、余計な騒動を招くだけな気はしている。
「まあ、ちょっとやってみるから」
色々と諦めながら咳払いをした俺は、ヴォラとティアマトの間につま先を割り込ませた。
「双方、喧嘩を止めろ」
〝ああ、邪魔すんじゃないわよ!〟
〝失礼ながら、このじゃじゃ馬とは決着をつけておかねばなりません〟
二体の幻獣は、まったく聞く耳を持とうとしなかった。
俺は思いっきり深呼吸をしてから、出来うる限りの静かな怒りを込めながら、二体にドスの利いた声で告げた。
「てめぇら……問答無用で封印したろがぁ! はよ、止めぁ!!」
〝あ――うん〟
〝申し訳ありませんでした〟
ようやく言い争いをやめた二体は、すごすごと引き下がっていった。
まったく……こんなんで、上手くいくのか?
少し心配になった俺に、マーカスさんが引き気味に声をかけてきた。
「あのさ、トト。今のは流石に、ガラが悪すぎないかい?」
「そういう文句を言う前に、ヴォラに隠密行動の意味を教えておいて下さいよ」
「あ……うん。すまない。言っておく」
頷くマーカスさんから離れた俺は、溜息を吐いた。ふと見れば、クリス嬢とエイヴが、あからさまに『どん引き』した顔をしていた。
流石にやり過ぎた――俺は少し焦りながら、二人に手を振って見せた。
「今のは――演技、演技ですから」
この言葉を信じて貰うまでに、軽く一時間は無駄にした。
……こんな調子で、今回の事件は本当に解決できるんだろうか?
俺の脳裏に浮き上がった『不安』の文字は、簡単に消すことができないほど大きくなっていった。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
この話ですが、時間軸としては第四章-三章-2の後半あたりです。
ボツの理由は話が長くなるのと、内容が無いよう……的な理由です。
そして余談ですが、本文中にあるトトの台詞、
「てめぇら……問答無用で封印したろがぁ! はよ、止めぁ!!」
は、誤記ではありません。
よく聞き取れないけど、耳がこう認識する発音だと思って下さい。
こういう発言が出来ちゃうから、つくづくトトはヒーローではないなぁと思います。
それでは、これからプロット作りです……しばしお待ちを。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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