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最終章前編
間話 ある乙女の好奇と占い
しおりを挟む間話 ある乙女の好奇と占い
トラストンがラントンの街に戻って、駐屯地へ荷を運ぶ仕事に潜入していた頃。
ティカ・カーマインは祖父の仕事で、サンドラの街の西側へと来ていた。うららかな昼下がりだが、春はまだ少し先だ。
日陰では上着がないと、冷たい風で凍えてしまう。
サンドラの街の西の一角に、カーマイン商店の倉庫がある。二階建て相当の家屋で、青い屋根と小さな看板が、目印となっていた。
ゲルドンス・カーマインが所有する倉庫だが、今は倉庫の一割程度しか荷が保管されていない。
「今回の商売は、ここまでかな。ティカ、明後日には帰ろうと思うが、どうかな?」
倉庫内にある荷の員数を確認していたティカは、青い瞳を大きく見開いた。
「え、もう?」
「ああ。次の商材を仕入れなければ。まだ、なにかできることがあるかね?」
「あの、トラストン君に、挨拶はしなくていいの?」
「彼も忙しいだろう。簡単に再会などできんよ。商売をしていれば、また会うこともあるだろう」
ゲルドンスの反論に、ティカは次の言葉を迷ってしまった。
こんな突然に、興味のある男の子と会えなくなるのは、少し残念な気がしていた。しかし、祖父の言うことは正論で、言い返す言葉が見つからない。
早く何か言わなきゃ――焦り始めたティカの脳裏に、占い師の顔が思い浮かんだ。
「あ、あの。知り合いの占い師さんに、そのことを占って貰ってから判断をしても……いいですか?」
「占い師? まあ……いいだろう」
「お爺様、ありがとうございます!」
ティカは員数の確認を手早く終わらせると、スピナルの店へと急いだ。
店のドアへと駆け寄ったティカだったが、ノブのところに『来客中』という札がかかっていた。
スピナルの店は、彼女一人で切り盛りしている。
来客があれば、次の客は外で待っていなくてはならない。占いとはいえ、顧客が依頼した内容への守秘義務は絶対だ。
「急いでるのに……」
しかし、こればかりはティカが文句を言ったところで、どうにもならない。
ドアの前で焦れったさを我慢しながら待っていること、十数分。店のドアが開いて、スピナル本人が顔を覗かせた。
「やはり、ティア・カーマインさん?」
「スピナルさん……あれ? 来客中ではないんですか?」
「ええ。お客様はお見えですが……それでもよろしければ、お話を伺いますよ」
「本当ですか!? それで構いませんので、お願いします!」
ティカの勢いのよい返答に、スピナルは微苦笑をしながら店の中へと促した。
「なんの御用――いえ、当てましょうか? トラストンという少年のことですね?」
「はい! 流石、スピナルさんです。彼に会って、挨拶をしたいんですけど……この街にトラストンが居るかどうか。居なければ、来ることはあるかどうかを占って欲しくて」
「あら、ご執心なこと。妬けてしまいますわ」
「あ、いえ。そんなんじゃ……ただ、祖父の恩人ですし、商売のこととか、色々話をしたくて……その切っ掛けになればと思って」
慌てたように両手を振り回すティカを見て、スピナルは目を細めるように微笑んだ。
「それではまず、室内でできる範囲で占ってあげましょう」
二人してテーブルについたとき、ティカは部屋の隅にある椅子に、金髪の少年が座っていることに気付いた。
服に使われた生地、そしてデザインから、貴族かそれに類する身分ということは、ティカにもわかった。
「あの、スピナルさん。彼がお客様ですか?」
「ええ。でも気にせずに、水晶を見ていてね」
「あ、はい……すいません」
ティカは謝ったものの、少年のことが無視できなかった。
年はまだ、十歳前後だろう。貴族らしい日に焼けていない白い肌をしている。まだあどけない顔つきだったが、その表情には怒りに満ちていた。
「……ティカさん?」
「あ、ご、ごめんなさい」
スピナルに窘められ、ティカは水晶に目を戻した。
それからしばらくして、スピナルは小さく息を吐いた。
「その少年は、今は街にいないわね。けど、また必ず、この街に来るわ」
「それは……いつですか?」
ティカの問いに、スピナルは小さく首を振った。
「そこまでは、ここでは出ないわ。二、三日ほど、占いに付き合ってくれるなら……わかるかもしれませんが」
ティカは少し迷ったが、(二、三日ならお爺様だって、文句を言わないと思うし)と、予想した。
「わかりました! それでお願いします」
ティカが同意すると、スピナルは頷いた。
その口に冷たい笑みが浮かんでいたが、部屋が薄暗いせいで、ティカはまったく気づけなかった。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
こちら、ちょっと久しぶりになってしまいました。
この土日、ちょっと用事で動き回っておりまして……脹ら脛が筋肉痛です。
ついでに献血などもやってきたわけですが。
おかげで昨日今日とへろへろです。血がたりねぇです。
四章-1は予定通り週末にはアップできると思います。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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