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ヴァイツェンが率いる討伐隊は馬で二日走り、東の森の入り口までやって来た。
"灰の森"と呼ばれるこの森には小物の魔物が住み着いており、倒すのは容易いが如何せん数が多い。
魔物が多いせいで禍々しい空気が澱み、まるで森に灰が降り積もっているように見えて"灰の森"と呼ばれるようになった。
時折討伐隊を派遣していたが、このところ予測以上に増えていると報告があり、予定を早めての遠征となった。
ヴァイツェンは宣言した通り、先頭で森を睨みつけながら慎重に進んでいる。
聖女の祓いの力を発動すれば騎士の仕事はかなり楽なものになるだろう、だが怖い思いをさせてしまったすぐに討伐に連れ出すなど、ヴァイツェンには出来なかった。
いや、そうしたくなかったのだ。
リリエナには安全で守られた場所にいて欲しい、いっそ閉じ込めてしまいたいとさえ思う、行き過ぎた過保護だと自覚はある。
当のリリエナ自身はそんな事は考えもしていないだろうけれど。
「殿下、間も無く奴らのテリトリーかと」
すぐ後ろから声をかけてきたのは騎士団長リンガルだ。
「うん。リンガル、テリトリーに入ったら私から皆を遠ざけてくれ。手加減なしで魔法を放出するつもりだが、味方を全て避ける余裕があるか分からないんだ」
「は、承知しましたが、下がるのは殿下のお姿が見える範囲とします。日々鍛錬を重ねた猛者達に心配は無用、存分に披露なされよ。俺は楽しみです」
リンガルの少しおどけた顔にヴァイツェンも身体の力を抜いた。
「そうか、では少し森を駄目にするかもしれないが、後を頼む」
「それは・・仰せのままに」
「では、行く」
馬の蹴り、ヴァイツェンは一人駆け出した。
「ようし、お前ら!殿下を視界にいれつつ広がれ!」
「「はっ」」
リンガルの号令で騎士達も魔物を薙ぎ払いながら駆け出し、リンガル自身はヴァイツェンのすぐ後ろで馬を走らせる。
気付くと眼前にキラキラしたものが漂って頬にチクチクと当たる。
「冷たい、・・雪?氷か」
すると一気に冷気が襲ってきた、咄嗟にリンガルは炎の魔法で防御壁を作る。
一瞬の事だった、見渡すと周囲の奥まった木々まで氷漬けとなって魔物と思われる物体がそこかしこに凍って転がっていた。
「さすがにお前は大丈夫なんだな」
馬を止めたヴァイツェンがリンガルを振り返る。
「これが殿下の、本当の力ですか」
初めて本気の力を目の当たりにし、その威力に誇らしさと同時に畏怖の念を感じた。
有効範囲は相当広いだろう、それだけの魔力を放出してもヴァイツェンはけろりとしているのだから、この王子の潜在能力は如何程なのか。
リンガルは改めてヴァイツェンが王太子であり、自分の主である事を誇りに思うのだった。
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