13 / 76
13・それはそうだと思う
しおりを挟む
私の声は、奥の玄関の扉が乱暴に叩きつけられる音で遮られた。
「おい、老魔術師ベルタ!」
扉の外から私の元婚約者、ユリウス王太子殿下が声を張っている。
「ここにレナーテをかくまっているのはわかっているんだ! 開けないつもりなら、無理矢理にでもこじ開けるぞ!!」
追手がやって来るかもしれないとは思っていたけれど、殿下が直々に来るなんて。
黙り込んでいた私の背中を、ディルは安心させるように撫でた。
「もしかして猫に変身できることを知られたから、追われているのか?」
「ううん。この力は昨日から。ディル以外、誰も知らない……。ベルタさんもいないし、隠れていればそのうち帰るはずだよ」
「そうかもしれないが、出向いた方が早いだろう」
ディルは白猫の私を抱きしめたまま立ち上がると、ゆったりとした足取りで玄関へと向かう。
「待って。ディルの体調はまだ治っていないの。無理はしないで」
「わかっている。レナ、俺に任せろ」
ディルは寝室の隣の居間を通り抜け、外からわめき声が聞こえる玄関の扉を開いた。
「なにか用か?」
室内からは老魔術師のベルタさんではなく、鍛え抜かれた体躯を持つ長身のディルが現れる。
運動不足の細身な中背のユリウス殿下と、背後に控える護衛の数名はその迫力に固まった。
ディルは昨日まで死にかけていたとは思えない、硬質な声色で対応する。
「呼びつけたというのに、なぜ黙っている。用件を言え」
淡々と告げるだけで滲む迫力に、ユリウス殿下は扉を叩いて振り上げていた拳を下ろし、目を泳がせた。
「わ、わかっていないようだが……俺は見た通り、テセルニア聖国の王太子だぞ」
「そうか。それを言いふらすことが用件なら、もう終わっただろう。帰るといい」
「待て! 聖女レナーテが行方をくらましたため、捜索をしている。室内を確認させてもらおう!」
殿下は騎士を伴って小屋に入り込むと、隅々まで見て回った。
ディルの腕の中にいる、猫の私には目も向けない。
「いないだと? しかし、そうだとすれば一体どこへ……」
「確認は終わったな。帰るといい」
「王太子に向かってその態度はなんだ。お前、レナーテについてなにか知っているのなら速やかに答え──わっ!!」
ユリウス殿下はディルの腕の中にいる私に気づくと、顔を驚愕に歪めて跳びあがった。
「なっ! なんだその白い凶獣は!!」
「白い凶獣?」
「そうかわかったぞ、魔術師のように使い魔をはべらせるなんて……! 背と態度のでかいお前はベルタの弟子だな!」
「違う。俺は服従する側で、こっちが主だ」
「うわああっ!!」
ディルが腕の中にいる私を少し高く抱きなおすと、ユリウス殿下は怯えたように一歩後ずさる。
猫一匹を前にして、火吹き竜に出くわしたかのような怖がり方だ。
「主だと? お前の主とは、その腕に抱いている……」
「美しい白猫のことだ」
ユリウス殿下も、後ろに控える護衛騎士たちも唖然としている。
うん、それはそうだと思う。
「猫が主? お前、そんな禍々しい存在に仕えているのか!?」
「禍々しい? 俺の命の恩人だ。従僕として忠誠を誓っている」
また言ってる。
というか、どちらの発言もちょっとズレているような……。
猫の姿のまま人前で話すのは目立つので、私はディルを見上げた。
その些細な動きにすら反応して、ユリウス殿下は怯えた様子で後ずさる。
「おい、やめろっ! 凶獣を俺に近づけるな!!」
「王太子、どこへ行くつもりだ。まだ俺の主の、世にも不思議な鳴き声を聞いていないだろう……なぁ?」
そう期待されてしまうと、黙っているわけにはいかない気がしてくる。
「おい、老魔術師ベルタ!」
扉の外から私の元婚約者、ユリウス王太子殿下が声を張っている。
「ここにレナーテをかくまっているのはわかっているんだ! 開けないつもりなら、無理矢理にでもこじ開けるぞ!!」
追手がやって来るかもしれないとは思っていたけれど、殿下が直々に来るなんて。
黙り込んでいた私の背中を、ディルは安心させるように撫でた。
「もしかして猫に変身できることを知られたから、追われているのか?」
「ううん。この力は昨日から。ディル以外、誰も知らない……。ベルタさんもいないし、隠れていればそのうち帰るはずだよ」
「そうかもしれないが、出向いた方が早いだろう」
ディルは白猫の私を抱きしめたまま立ち上がると、ゆったりとした足取りで玄関へと向かう。
「待って。ディルの体調はまだ治っていないの。無理はしないで」
「わかっている。レナ、俺に任せろ」
ディルは寝室の隣の居間を通り抜け、外からわめき声が聞こえる玄関の扉を開いた。
「なにか用か?」
室内からは老魔術師のベルタさんではなく、鍛え抜かれた体躯を持つ長身のディルが現れる。
運動不足の細身な中背のユリウス殿下と、背後に控える護衛の数名はその迫力に固まった。
ディルは昨日まで死にかけていたとは思えない、硬質な声色で対応する。
「呼びつけたというのに、なぜ黙っている。用件を言え」
淡々と告げるだけで滲む迫力に、ユリウス殿下は扉を叩いて振り上げていた拳を下ろし、目を泳がせた。
「わ、わかっていないようだが……俺は見た通り、テセルニア聖国の王太子だぞ」
「そうか。それを言いふらすことが用件なら、もう終わっただろう。帰るといい」
「待て! 聖女レナーテが行方をくらましたため、捜索をしている。室内を確認させてもらおう!」
殿下は騎士を伴って小屋に入り込むと、隅々まで見て回った。
ディルの腕の中にいる、猫の私には目も向けない。
「いないだと? しかし、そうだとすれば一体どこへ……」
「確認は終わったな。帰るといい」
「王太子に向かってその態度はなんだ。お前、レナーテについてなにか知っているのなら速やかに答え──わっ!!」
ユリウス殿下はディルの腕の中にいる私に気づくと、顔を驚愕に歪めて跳びあがった。
「なっ! なんだその白い凶獣は!!」
「白い凶獣?」
「そうかわかったぞ、魔術師のように使い魔をはべらせるなんて……! 背と態度のでかいお前はベルタの弟子だな!」
「違う。俺は服従する側で、こっちが主だ」
「うわああっ!!」
ディルが腕の中にいる私を少し高く抱きなおすと、ユリウス殿下は怯えたように一歩後ずさる。
猫一匹を前にして、火吹き竜に出くわしたかのような怖がり方だ。
「主だと? お前の主とは、その腕に抱いている……」
「美しい白猫のことだ」
ユリウス殿下も、後ろに控える護衛騎士たちも唖然としている。
うん、それはそうだと思う。
「猫が主? お前、そんな禍々しい存在に仕えているのか!?」
「禍々しい? 俺の命の恩人だ。従僕として忠誠を誓っている」
また言ってる。
というか、どちらの発言もちょっとズレているような……。
猫の姿のまま人前で話すのは目立つので、私はディルを見上げた。
その些細な動きにすら反応して、ユリウス殿下は怯えた様子で後ずさる。
「おい、やめろっ! 凶獣を俺に近づけるな!!」
「王太子、どこへ行くつもりだ。まだ俺の主の、世にも不思議な鳴き声を聞いていないだろう……なぁ?」
そう期待されてしまうと、黙っているわけにはいかない気がしてくる。
3
あなたにおすすめの小説
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【完結】勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい ~婚約者契約は円満に終了しました
九條葉月
恋愛
【ジャンル1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約(婚約者関係)を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
順調に準備を進めていると、契約を終えたはずの公爵様や王太子殿下たちがなぜか次々とお店にやって来て――!?
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤
凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。
幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。
でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです!
ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。
ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる