【完結】白猫聖女は従僕魔帝の腕の中~婚約破棄された前世悪役令嬢が、冷酷魔帝陛下から溺愛されているワケ~

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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48・聖水になってた

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 私は用意していた温かいハーブティーをディルに渡した。

 ディルはカップに自分の顔を近づけて、わずかに目を見開く。

「これは……今までにまったく知らない、しかし心が安らぐような香りがするな」

 一口飲んで、興味を持ったように澄んだ液体を覗き込む。

「ほんのりと果実のような甘みがある。さっぱりとした風味で飲みやすい」

「そうでしょう? 帰りにイザベラと魔術具屋さんに寄って、ディルに合いそうな茶葉を探したんだよ。それをブレンドしたの」

「気のせいだと思うが……これは聖水で淹れたのではないか?」

「そうなの? 放置されていた古井戸の水を清めて使ったからかな」

「レナにかかれば、聖水もずいぶん気軽な扱いになるようだ。しかし贅沢な話ではあるが、聖水でつくれば薬効成分も高まるだろう。味もいい」

 そう言って上品にハーブティーを飲んでいるディルの横顔は、いつになくやわらいでいる。

 気に入ってくれたのかな。

「あの井戸水はひと月くらい効果があるはずだよ。聖水があれば周辺も浄化されるし、魔獣除けにも使えるし、魔力を保存したりもできるよ。浸透力と浄化力が強すぎるから、がぶがぶ常飲はおすすめできないけれど。聖水の扱い方を知っている人がいたら、他にも色々利用してみてね」

「ああ、井戸水が聖水になったと知れば、ハーロルトも喜ぶだろう」

 そういえばハーロルトさんは偽物のイザベラを捕まえたとき、私のことを見ていた。

 なにも言わなかったけれど、私が偽物の変化魔術を解除したことに気づいたのかな。

「もちろん私も、またディルにお茶を淹れるね。きっと体調も安定してくるから」

 今日の昼間にディルと会わなかったのは、私と半日ほど離れていても、夜まで体調が安定しているかを調べるためだった。

 建国祭のときは、ディルは厳めしい魔帝としてふるまうことになる。

 そのときは白猫を膝の上にのせているわけにはいかないので、確認したんだけど……。

 見たところ問題なさそうだし、建国祭も大丈夫そう。

 このハーブティーを飲めば、体調だってもっと落ち着くはずだし。

「しかしレナ。俺の体調を気づかってもらえるのはありがたいが、お前はまた自分の世話を忘れているようだな」

「私の?」

「ああ。レナは望むままに魔力を使っているだろう。それがお前のやさしさだとわかっていても、俺はそれを放っておきたくない」

 ディルは席を立つと、自然と私を隣の椅子へ座らせている。

「茶の淹れかたは、ベルタの小屋で習った。少し休んで、遠慮せず俺を使うといい」

「ありがとう。でも今日はそこまで疲れていないし。お茶もそんなにたくさんは……うん、ほんの少しだけもらおうかな」

「わかった。これから俺が用意して──」

 私は歩き出そうとしたディルの手からカップを取る。

 そして一口だけ残っていたそれを、丁寧にいただいた。

 うん、すっきりとした後味がおいしい。

「このお茶は冷めても風味が損なわれないね。ディルも気に入ってくれたみたいで嬉しいな」

「……」

 おや、返事がない。

 見上げるとディルは瞬きもせず、どこか真剣にも思える表情で私を見下ろしていた。

「……レナ」

「ん?」

「やすやすと翻弄するな」

「?」

「……いや、なんでもない」

 ディルは顔にてのひらを重ねて、長く息を吐く。

 私は立ち上がっていたディルを、再びカウチに座らせた。

 ハーブティーの好転反応で、急に疲れが出たのかもしれない。

「ごめんね、全然気づけなくて」

「いや、気づかなくていい。しかもその無防備さが嫌ではない……」

 ディルははっきりと言わないけれど、私と昼間に会っていなかったせいで、魂が不安定になっているのかな。

 それで昼間に……?

「ねぇディル。黒猫になって私を見ていたのはどうして?」





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