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7章
54・王城に来ましたが、注目を浴びているようです
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エレファナは馬車から降り立ったが、セルディが手を取ったまま動かないので、不用意な言葉を避けるため上目遣いで問いかける。
気付いたセルディは、数度瞬きをしてから我に返った。
そして馬車から降り立った途端に別の顔を見せた妻へだけ一瞬、意味ありげな微笑みを向ける。
それからは丁重なエスコートに徹して、二人は王城へと足を踏み入れた。
(私達以外にも、たくさんの招待客が来ています)
今回の夜会は、第二王子が若年層の交流を活発にしようという建前で開かれたものだが、彼の本音は自分の婚約者探しを目的としているらしい。
そのため招待客は若者が多く、慣れずに緊張したり、逆に浮足立っている者もちらほら見受けられた。
しかしエレファナとセルディに気づくと、誰もが視線を止めて目をみはる。
「見て、あの背の高いお方……黒銀の騎士さまではないかしら?」
「ということは、彼がエスコートしている不思議な髪の色の女性は……」
広い通路を着飾った人々に紛れて進んでいく間にも、二人にはあちらこちらから視線が絡みついた。
(私がセルディさまの妻……傾国の魔女だと気づいた方たちから、やはり怖がられているのでしょうか?)
国内では人々を安心させるために、セルディがドルフ領を治めることで、傾国の魔女の力を抑えられているという話が一般的になっている。
エレファナも人々を怖がらせたくないので、その話に合わせて自分の魔力を内側に留めていて、『魔力の気配が抑えられている』と思える配慮をしていた。
(それに女性の方たちは頬を染めて見つめてくるので、きっとセルディさまの魅力で魔女の怖さも半減しているのだと信じたいです。今のセルディさま、私もみとれていたいくらい素敵ですから!)
エレファナはいつもとは違う夫の姿を絶えず褒めたたえていたかったが、今宵は王太子を含めてこの場にいる人々に『自分が不届き者ではない』と示すためにやって来た。
そのため怪しまれることがないようにと余計な言葉は極力控えて、微笑をたたえたまま滑らかに進む。
エスコートしてくれるセルディは一見、いつも通り淡々としているように見えた。
しかし普段の彼を知っているエレファナから見るとわずかに、なにか耐えているような不愉快そうな違和感が伝わってくる。
エレファナは周囲には聞こえないように囁いた。
「お腹でも痛いのですか?」
「いや。ここにいると令息たちが君をじろじろと見てくるからな」
(やはり私は、周囲の方を怯えさせてしまっているのでしょうか)
「エレファナ、特別なことがない限り、俺のそばにいてくれるな?」
「もちろんです。セルディさまがいないと気が緩んで、おすましすることを忘れてしまいそうですし。みなさんに不届き者ではないと、安心してもらいたいですから」
(なによりセルディさまと王太子さまとの友情に傷をつけたくないのです! あら? あの方……)
ホールへと続く広い通路の曲がり角にはたくさんの往来があったが、エレファナはその隅で初々しく着飾った令嬢がうずくまっていることに気づいた。
気付いたセルディは、数度瞬きをしてから我に返った。
そして馬車から降り立った途端に別の顔を見せた妻へだけ一瞬、意味ありげな微笑みを向ける。
それからは丁重なエスコートに徹して、二人は王城へと足を踏み入れた。
(私達以外にも、たくさんの招待客が来ています)
今回の夜会は、第二王子が若年層の交流を活発にしようという建前で開かれたものだが、彼の本音は自分の婚約者探しを目的としているらしい。
そのため招待客は若者が多く、慣れずに緊張したり、逆に浮足立っている者もちらほら見受けられた。
しかしエレファナとセルディに気づくと、誰もが視線を止めて目をみはる。
「見て、あの背の高いお方……黒銀の騎士さまではないかしら?」
「ということは、彼がエスコートしている不思議な髪の色の女性は……」
広い通路を着飾った人々に紛れて進んでいく間にも、二人にはあちらこちらから視線が絡みついた。
(私がセルディさまの妻……傾国の魔女だと気づいた方たちから、やはり怖がられているのでしょうか?)
国内では人々を安心させるために、セルディがドルフ領を治めることで、傾国の魔女の力を抑えられているという話が一般的になっている。
エレファナも人々を怖がらせたくないので、その話に合わせて自分の魔力を内側に留めていて、『魔力の気配が抑えられている』と思える配慮をしていた。
(それに女性の方たちは頬を染めて見つめてくるので、きっとセルディさまの魅力で魔女の怖さも半減しているのだと信じたいです。今のセルディさま、私もみとれていたいくらい素敵ですから!)
エレファナはいつもとは違う夫の姿を絶えず褒めたたえていたかったが、今宵は王太子を含めてこの場にいる人々に『自分が不届き者ではない』と示すためにやって来た。
そのため怪しまれることがないようにと余計な言葉は極力控えて、微笑をたたえたまま滑らかに進む。
エスコートしてくれるセルディは一見、いつも通り淡々としているように見えた。
しかし普段の彼を知っているエレファナから見るとわずかに、なにか耐えているような不愉快そうな違和感が伝わってくる。
エレファナは周囲には聞こえないように囁いた。
「お腹でも痛いのですか?」
「いや。ここにいると令息たちが君をじろじろと見てくるからな」
(やはり私は、周囲の方を怯えさせてしまっているのでしょうか)
「エレファナ、特別なことがない限り、俺のそばにいてくれるな?」
「もちろんです。セルディさまがいないと気が緩んで、おすましすることを忘れてしまいそうですし。みなさんに不届き者ではないと、安心してもらいたいですから」
(なによりセルディさまと王太子さまとの友情に傷をつけたくないのです! あら? あの方……)
ホールへと続く広い通路の曲がり角にはたくさんの往来があったが、エレファナはその隅で初々しく着飾った令嬢がうずくまっていることに気づいた。
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