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10章
78・わかってはいても不思議な感じです
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「セルディさまの枷は、ドルフ皇帝が自分で着けてくれましたので、今は無いはずです。私の枷はどうなっているのかわかりません。念のため、両方とも確認してみましょう」
二人は互いに指輪を取り合う。
薬指の付け根は、どちらもまっさらとなって現れた。
しばらくの間、二人はそれぞれの手を不思議そうに眺める。
「……私と二百年以上一緒だった枷の模様が無くなっていると、違和感があります!」
「ああ。俺も生まれたときからある枷に、全く愛着などないが……。失ってみると、自分の手ではないような妙な感じだ」
「でもこれで安心です。枷がなくなったので、セルディさまはもう誰にも縛られず、元気でいられます。本当に良かったです」
見上げると、セルディは外した指輪をそっと握りしめている。
その顔に一瞬だけ、なにかを恐れるような表情が差した。
「エレファナはもう、俺からも自由なのだな」
「あっ! 枷がなくなるということは、私たちを縛るものも無くなったということなのですね。それでしたらセルディさまも、私から自由になったということです!」
「そうだな。そう考えれば、これは俺にとってのきっかけかもしれない」
「きっかけ……セルディさま、なにかお考えがあるのですか?」
セルディはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと頷いた。
「エレファナ。改めて、君に伝えたいことがある」
「はい、聞きたいです!」
どんな話なのかと、エレファナが目を輝かせて見上げる。
セルディは何度か言いかけたが、その先が出てこなかった。
(セルディさまの横顔が、はじめて見るほど強張っています)
エレファナが急がせる様子もなく待っていることに気づき、セルディは苦笑する。
「すまない。自分から言い出したまま、なにもできずにいて」
「いいえ。気にしないでください。セルディさまのお話なら、私はなんでも聞きたいのですが……。言いにくいことですか?」
「いや、言葉にすると本質から遠のく気がして。どうすれば正確に伝えられるのか、わからないんだ」
「そうでしたか」
真面目なセルディらしいと、エレファナは納得した。
「私ならいつでも聞く準備ができています。急いでいないのであれば、セルディさまのタイミングで教えてください!」
「ありがとう。でもやはり今、伝えておきたい。お互い自由になったのだから」
セルディは心を決めたように、エレファナをまっすぐ見つめる。
朝日の満ちる草地で、二人は向かい合った。
「俺が以前謝罪したことを覚えているか? 君に会ったとき、愛することはないと言ったのだが」
「もちろん覚えています! 今思い出しても、惚れぼれするほど率直な話し方ですね! 私の旦那さまになってくれる方は、なんて正直な方なのだろうと感動しました!!」
「……君の好意的な寛大さにはとても救われたが。しかし、俺の考えは間違いだった。俺は今までの人生から、自分が誰かを愛する能力など持てるはずがないと思っていた。しかしそれは、自分で決めつけるものではなかったらしい。エレファナ、君が教えてくれたのだから」
(それは、つまり……)
二人は互いに指輪を取り合う。
薬指の付け根は、どちらもまっさらとなって現れた。
しばらくの間、二人はそれぞれの手を不思議そうに眺める。
「……私と二百年以上一緒だった枷の模様が無くなっていると、違和感があります!」
「ああ。俺も生まれたときからある枷に、全く愛着などないが……。失ってみると、自分の手ではないような妙な感じだ」
「でもこれで安心です。枷がなくなったので、セルディさまはもう誰にも縛られず、元気でいられます。本当に良かったです」
見上げると、セルディは外した指輪をそっと握りしめている。
その顔に一瞬だけ、なにかを恐れるような表情が差した。
「エレファナはもう、俺からも自由なのだな」
「あっ! 枷がなくなるということは、私たちを縛るものも無くなったということなのですね。それでしたらセルディさまも、私から自由になったということです!」
「そうだな。そう考えれば、これは俺にとってのきっかけかもしれない」
「きっかけ……セルディさま、なにかお考えがあるのですか?」
セルディはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと頷いた。
「エレファナ。改めて、君に伝えたいことがある」
「はい、聞きたいです!」
どんな話なのかと、エレファナが目を輝かせて見上げる。
セルディは何度か言いかけたが、その先が出てこなかった。
(セルディさまの横顔が、はじめて見るほど強張っています)
エレファナが急がせる様子もなく待っていることに気づき、セルディは苦笑する。
「すまない。自分から言い出したまま、なにもできずにいて」
「いいえ。気にしないでください。セルディさまのお話なら、私はなんでも聞きたいのですが……。言いにくいことですか?」
「いや、言葉にすると本質から遠のく気がして。どうすれば正確に伝えられるのか、わからないんだ」
「そうでしたか」
真面目なセルディらしいと、エレファナは納得した。
「私ならいつでも聞く準備ができています。急いでいないのであれば、セルディさまのタイミングで教えてください!」
「ありがとう。でもやはり今、伝えておきたい。お互い自由になったのだから」
セルディは心を決めたように、エレファナをまっすぐ見つめる。
朝日の満ちる草地で、二人は向かい合った。
「俺が以前謝罪したことを覚えているか? 君に会ったとき、愛することはないと言ったのだが」
「もちろん覚えています! 今思い出しても、惚れぼれするほど率直な話し方ですね! 私の旦那さまになってくれる方は、なんて正直な方なのだろうと感動しました!!」
「……君の好意的な寛大さにはとても救われたが。しかし、俺の考えは間違いだった。俺は今までの人生から、自分が誰かを愛する能力など持てるはずがないと思っていた。しかしそれは、自分で決めつけるものではなかったらしい。エレファナ、君が教えてくれたのだから」
(それは、つまり……)
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