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2・姫が待っている
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砂と岩ばかりの乾いた街を歩いていると、目の前に赤々と揺れる火の玉が上がった。
蜃気楼かと思ったが、皮膚に焼け付くような熱を感じて、アロンは飛びのく。
うんざりした気分で、振り返った。
砂で固められただけの、貧相な建物が立ち並ぶ町の酒場の前に、少女が立っている。
アロンは不機嫌そうに眉を寄せた。
「やっぱり、ベルか」
ベルと呼ばれた少女は、魔女のような三角帽子の下にある、幼く美しい顔をほんのりと染めながらも、片手にはごつい酒瓶を下げていた。
「また酔っぱらってるのか。ほどほどにしろ」
「ふふ。私のこと心配してくれてる? 惚れるよ」
アロンは逃げるような気分で、舗装されていない道を進んだが、ベルは炎の術師らしい黒と赤の、しかし妙に丈の短いスカートを揺らしながら、軽やかな足取りで追いかけてくる。
「頼むから、今の俺に寄るな。からむな。酒臭い。瓶を持つな危ない」
「優しい言葉をかけてくれるなんて、相変わらずいいやつだね、アロンは」
「そういう言い方、やめろよ。気分悪い」
「それは酒が足りないんじゃないのぉ? そうだ。元気が出るように、一発ビンタしてあげようか? だいじょうぶ、だいじょうぶ。私、炎術師だもん。炎には自信あるけど、身体もほら、ちいさくなっちゃって、物理攻撃はたいした威力も出ないでしょ? 一発くらい、いいじゃない」
酔っ払いとは、どうしてこうも扱いにくいものなのか。
アロンが無視して進んでも、ベルはお構いなしで絡みついてきた。
酒の飲み過ぎでどこか悪くしているのか、ベルの腕はエミリマとは違う感じで細い。
「でも、アロンのおかげだよぉ。私、トレブ遺跡にひとりで乗り込む勇気なんてなかったけど、アロンがいたから魔物に襲われても、全部押し付けられたし、快適だったなぁ。結局、砂泉の霊薬は見つけられなかったけど、王様からもらえたから、本当に感謝していてね。だからそのお礼に一発、ビンタを、」
「はいはい。今度な」
「だけどなぁ、アロンは私以外の人に優しすぎるよ。だいだいね、あんなところに遊びに来てワームに襲われている、もの知らずの姫なんて放っておけば、」
「うるさいな!」
今、一番聞きたくない言葉が飛び込んできて、アロンは反射的に怒鳴っていた。
細い腕が離れる。
アロンは我に返り、慌てて謝ろうとしたが、ベルが冷ややかに見上げてくることに気づいて、言葉が出なくなった。
思わず目を反らしたが、視線を感じる。
「事情、言ってきてあげようか?」
「やめろよ」
言いながら、口調が荒れていることに気づいた。
アロンは胸の奥でせめぎ合っている不愉快な感情を押し込みながら、できるかぎり落ち着いた声を出す。
「頼むから、やめてくれ」
「なんで」
「エミリマには、嫌われたほうがいいんだ。それで、俺のことはすっきり忘れて、別の誰かと幸せになってくれればいい」
「アロンは?」
「俺……?」
「エミリマがいないのに、アロンはどうやって幸せになるの?」
「俺には、姫が待っている」
「じゃあ私は?」
「あのな……ベルはさっさと他の霊薬も集めて、まずはその姿を治したほうがいい。その見た目詐欺で、汚く酒を飲むのは問題があるし、なにより一人で歩きまわるのは危ない」
「え? アロンが守ってくれるんじゃないの?」
「どうしてそうなるんだよ。それに、俺には姫が待っているから」
これ以上、酔っ払いにつき合っている気分ではなかった。
アロンは姫の待つ王都の方角へ、重い足を向ける。
蜃気楼かと思ったが、皮膚に焼け付くような熱を感じて、アロンは飛びのく。
うんざりした気分で、振り返った。
砂で固められただけの、貧相な建物が立ち並ぶ町の酒場の前に、少女が立っている。
アロンは不機嫌そうに眉を寄せた。
「やっぱり、ベルか」
ベルと呼ばれた少女は、魔女のような三角帽子の下にある、幼く美しい顔をほんのりと染めながらも、片手にはごつい酒瓶を下げていた。
「また酔っぱらってるのか。ほどほどにしろ」
「ふふ。私のこと心配してくれてる? 惚れるよ」
アロンは逃げるような気分で、舗装されていない道を進んだが、ベルは炎の術師らしい黒と赤の、しかし妙に丈の短いスカートを揺らしながら、軽やかな足取りで追いかけてくる。
「頼むから、今の俺に寄るな。からむな。酒臭い。瓶を持つな危ない」
「優しい言葉をかけてくれるなんて、相変わらずいいやつだね、アロンは」
「そういう言い方、やめろよ。気分悪い」
「それは酒が足りないんじゃないのぉ? そうだ。元気が出るように、一発ビンタしてあげようか? だいじょうぶ、だいじょうぶ。私、炎術師だもん。炎には自信あるけど、身体もほら、ちいさくなっちゃって、物理攻撃はたいした威力も出ないでしょ? 一発くらい、いいじゃない」
酔っ払いとは、どうしてこうも扱いにくいものなのか。
アロンが無視して進んでも、ベルはお構いなしで絡みついてきた。
酒の飲み過ぎでどこか悪くしているのか、ベルの腕はエミリマとは違う感じで細い。
「でも、アロンのおかげだよぉ。私、トレブ遺跡にひとりで乗り込む勇気なんてなかったけど、アロンがいたから魔物に襲われても、全部押し付けられたし、快適だったなぁ。結局、砂泉の霊薬は見つけられなかったけど、王様からもらえたから、本当に感謝していてね。だからそのお礼に一発、ビンタを、」
「はいはい。今度な」
「だけどなぁ、アロンは私以外の人に優しすぎるよ。だいだいね、あんなところに遊びに来てワームに襲われている、もの知らずの姫なんて放っておけば、」
「うるさいな!」
今、一番聞きたくない言葉が飛び込んできて、アロンは反射的に怒鳴っていた。
細い腕が離れる。
アロンは我に返り、慌てて謝ろうとしたが、ベルが冷ややかに見上げてくることに気づいて、言葉が出なくなった。
思わず目を反らしたが、視線を感じる。
「事情、言ってきてあげようか?」
「やめろよ」
言いながら、口調が荒れていることに気づいた。
アロンは胸の奥でせめぎ合っている不愉快な感情を押し込みながら、できるかぎり落ち着いた声を出す。
「頼むから、やめてくれ」
「なんで」
「エミリマには、嫌われたほうがいいんだ。それで、俺のことはすっきり忘れて、別の誰かと幸せになってくれればいい」
「アロンは?」
「俺……?」
「エミリマがいないのに、アロンはどうやって幸せになるの?」
「俺には、姫が待っている」
「じゃあ私は?」
「あのな……ベルはさっさと他の霊薬も集めて、まずはその姿を治したほうがいい。その見た目詐欺で、汚く酒を飲むのは問題があるし、なにより一人で歩きまわるのは危ない」
「え? アロンが守ってくれるんじゃないの?」
「どうしてそうなるんだよ。それに、俺には姫が待っているから」
これ以上、酔っ払いにつき合っている気分ではなかった。
アロンは姫の待つ王都の方角へ、重い足を向ける。
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