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6・あきらめてくれ
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アロンははじかれたように、エミリマの手を引いて、薄暗い道を走り出した。
背後から、ねっとりとした声が追いかけてくる。
「アロンはダメよ。でも、わたくしを助けてくれるくらい、とっても強いから……手首くらい飛ばさないと、あなたたちでは捕まえられないかもしれないわね。それにもし手首だけでもあれば、わたくし、アロンに会えないときも、ずっと手をつないでいられるのよ」
アロンは薄暗い町はずれを見回した。
辺りにひとけはない。
粗く敷かれた石畳の道と、そばの河川敷の横に川が流れているだけだった。
身を隠しやすい場所も、敵の目をかく乱させられそうな物も見当たらない。
それにエミリマを連れているため、一人のときのようには走れない。アロンの背後に、すぐ複数の足音が追いついてくる。
アロンは走り続けたまま、叫んだ。
「頼む、見逃してくれ! 俺はあんたたちに危害を加えるつもりもない。それにエミリマは、何も知らないんだ!」
「わかっている」
追走するひとりの近衛騎士、黒髪の男が、鞘に納めた剣に手をかける。
「しかし我々にも家族がいる。立場も、名誉も、自分の命も、すべて握られている。おまえならわかるだろう。だから、」
硬質な音を立て、剣が引き抜かれる。
黒髪の騎士は一気に速度を上げると跳躍し、アロンに手を引かれて走るエミリマの背に狙いを定め、月光に光る刃先を振り下ろした。
「俺たちのために、あきらめてくれ!」
アロンはエミリマをかばって近衛騎士側に進み出た。
俊敏な動きで黒髪の騎士の懐へ滑り込み、その腕に拳の強打を入れる。
「……ぐぁっ!」
黒髪の近衛騎士は激痛に顔をゆがめたが、アロンは容赦なく彼の痛んだ腕から剣を奪い取ると、さらにやってくる長身の近衛騎士に猛進する。
気圧され、長身の騎士の動きがわずかによどんだ。
アロンはその隙を逃さず、警戒の手薄になっている足に、奪った剣で一撃を叩きこむ。
「う、ぁ……あ!」
アロンは一瞥もせず、再びエミリマの手を引いて走りはじめた。
「あきらめる、わけないだろ……!」
エミリマの長年苦しんでいた不調は、ようやく落ち着いてきた。
砂嵐が起こるとよく体調を崩して寝てばかりだったが、ずいぶん顔色も良くなった。食べたものを戻してしまうことも減って、体も丈夫になってきた。
もしかすると遊びに出かけたりする体力や、やりたがっていた家族との仕事も始めることができるかもしれない。
そんな未来が次々と浮かんでくるのに、アロンの拳がずきずきと邪魔をしてくる。
いつも母から、父譲りだと誇らしげに言われた手が、痛かった。
アロンはその痛みに気を取られ、エミリマの呼吸がずいぶん乱れていることに気づくのが遅れる。
「アロン、私……もう、走れない」
「走れ!」
「無理よ、もう息が……!」
アロンは剣を捨て置くと、両腕でエミリマを抱え、走りはじめる。
霊薬を飲んだとしても、突然体力が付くわけではないことくらい、わかっていた。
しかしこれから、どんどん良くなっていくのだと自分に言い聞かせながら、アロンは必死に駆ける。
「アロン、私を抱えて走るなんて無理よ。おろして!」
「仕方ないだろ、走れないんだから!」
「あなただけなら、逃げられる」
「そんなことして、何の意味があるんだ! なぜ俺があんな危険な場所まで霊薬を探しに行ったと思ってる! どうして、あんなひどい別れ方をしたと思ってる! 俺はただ、エミリマに元気でいて欲しい。幸せになって欲しいだけだ! ずっと! ずっと、それだけなんだよ!」
自然と、抱きしめる腕に力がこもった。
アロンは夢中で走り続ける。
心臓が破裂するのかと思うほど脈打っているが、構わない。
逃げるんだ、姫から。
背後から、ねっとりとした声が追いかけてくる。
「アロンはダメよ。でも、わたくしを助けてくれるくらい、とっても強いから……手首くらい飛ばさないと、あなたたちでは捕まえられないかもしれないわね。それにもし手首だけでもあれば、わたくし、アロンに会えないときも、ずっと手をつないでいられるのよ」
アロンは薄暗い町はずれを見回した。
辺りにひとけはない。
粗く敷かれた石畳の道と、そばの河川敷の横に川が流れているだけだった。
身を隠しやすい場所も、敵の目をかく乱させられそうな物も見当たらない。
それにエミリマを連れているため、一人のときのようには走れない。アロンの背後に、すぐ複数の足音が追いついてくる。
アロンは走り続けたまま、叫んだ。
「頼む、見逃してくれ! 俺はあんたたちに危害を加えるつもりもない。それにエミリマは、何も知らないんだ!」
「わかっている」
追走するひとりの近衛騎士、黒髪の男が、鞘に納めた剣に手をかける。
「しかし我々にも家族がいる。立場も、名誉も、自分の命も、すべて握られている。おまえならわかるだろう。だから、」
硬質な音を立て、剣が引き抜かれる。
黒髪の騎士は一気に速度を上げると跳躍し、アロンに手を引かれて走るエミリマの背に狙いを定め、月光に光る刃先を振り下ろした。
「俺たちのために、あきらめてくれ!」
アロンはエミリマをかばって近衛騎士側に進み出た。
俊敏な動きで黒髪の騎士の懐へ滑り込み、その腕に拳の強打を入れる。
「……ぐぁっ!」
黒髪の近衛騎士は激痛に顔をゆがめたが、アロンは容赦なく彼の痛んだ腕から剣を奪い取ると、さらにやってくる長身の近衛騎士に猛進する。
気圧され、長身の騎士の動きがわずかによどんだ。
アロンはその隙を逃さず、警戒の手薄になっている足に、奪った剣で一撃を叩きこむ。
「う、ぁ……あ!」
アロンは一瞥もせず、再びエミリマの手を引いて走りはじめた。
「あきらめる、わけないだろ……!」
エミリマの長年苦しんでいた不調は、ようやく落ち着いてきた。
砂嵐が起こるとよく体調を崩して寝てばかりだったが、ずいぶん顔色も良くなった。食べたものを戻してしまうことも減って、体も丈夫になってきた。
もしかすると遊びに出かけたりする体力や、やりたがっていた家族との仕事も始めることができるかもしれない。
そんな未来が次々と浮かんでくるのに、アロンの拳がずきずきと邪魔をしてくる。
いつも母から、父譲りだと誇らしげに言われた手が、痛かった。
アロンはその痛みに気を取られ、エミリマの呼吸がずいぶん乱れていることに気づくのが遅れる。
「アロン、私……もう、走れない」
「走れ!」
「無理よ、もう息が……!」
アロンは剣を捨て置くと、両腕でエミリマを抱え、走りはじめる。
霊薬を飲んだとしても、突然体力が付くわけではないことくらい、わかっていた。
しかしこれから、どんどん良くなっていくのだと自分に言い聞かせながら、アロンは必死に駆ける。
「アロン、私を抱えて走るなんて無理よ。おろして!」
「仕方ないだろ、走れないんだから!」
「あなただけなら、逃げられる」
「そんなことして、何の意味があるんだ! なぜ俺があんな危険な場所まで霊薬を探しに行ったと思ってる! どうして、あんなひどい別れ方をしたと思ってる! 俺はただ、エミリマに元気でいて欲しい。幸せになって欲しいだけだ! ずっと! ずっと、それだけなんだよ!」
自然と、抱きしめる腕に力がこもった。
アロンは夢中で走り続ける。
心臓が破裂するのかと思うほど脈打っているが、構わない。
逃げるんだ、姫から。
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